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てっしゅう
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「忘れられない」 第六章 再会

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「彼は今の会社では部長だからね・・・ボクと違って高給取りだし、権限もある地位なんだ。元々大阪だろう、パソコン事務のポジションで雇ってくれるように頼んであげるって返事を貰っている」
「そうなの・・・安田さんって凄い人なのね。初めて逢ったときからなんだか温厚で素敵な人だと感じていたけど・・・その通りなのね。仁美さん、きっともとの幸せを取り戻せるわ」
「キミがそんなふうに安田くんを見ていたなんて・・・ちょっと妬けるな。ボクは昔と違うし・・・」
「あら!嫉妬したの・・・フフフ、あなたらしくない。私は前向きでいつも笑顔だったあなたが好き。社会的な地位なんか望まないし、健康でずっと一緒に暮らせたらそれでいいの。約束して・・・そうするって」

明雄は有紀のしっかりとした考え方に心を打たれた。いつか妙智寺へお礼に行きたいとふと思った。

散歩を終えて部屋に戻ってきた明雄は有紀に向かって、
「なあ、来年ボクがここへ戻ってきて、安田くんに世話になる前に時間をとって妙智寺へ行かないか?住職にお礼を言いたいし、これからの二人のこと約束してきたいんだ」
「いいね、私もお礼が言いたいわ。それに向こうにいる久美や志穂にも会いたいし。ほら、一緒に旅行に行ってた二人のことよ、覚えている?」
「ゴメン、顔は忘れちゃったなあ・・・あの時のお友達だね、何処に住んでいるの?」
「うん、東京と藤沢だけど去年品川で会ったから、また今度もそうしたい。あなたを紹介しないと彼女たちも心配してくれていると思うからね」
「そうだな、じゃあ二泊ぐらいして帰ってこよう」
「ええ、そうしましょう」

夕方になって仁美からメールが来た。
「もうすぐ着くけど、あなたの所に寄って構わない?」
「いいよ、是非寄って」と返信した。

5時を回ってインターホンが鳴った。
「仁美さんだわ。出てくるね」明雄にそう声かけて、扉を開けた。
「こんばんわ・・・あら?どなたかいらっしゃるのね。入って構わないの?」仁美は玄関にあった男性の靴を見てそういった。
「ええ、大丈夫よ。紹介するから」

明雄は居間で立って出迎えた。
「初めまして、石原明雄です」
「こちらこそ、初めまして、内川・・・いや安田仁美です」仁美は安田姓を名乗った。気持ちはもう戻ろうとしているのだろう、有紀はそう感じた。
「有紀がいつもお世話になってありがとうございます。素敵な方ですね・・・安田くんにふさわしいなあ」
「あら、初対面なのにお褒め戴いて・・・有紀さんがずっと待ち続けた方にこうしてお会い出来るなんて、よかったですわ。これからもよろしくお願いしますね」

仁美はちょっと疲れているかのような風貌を感じたが、誠実そうな男性で良かったと第一印象で感じていた。

「安田とは何処でお知り合いになられましたの?」仁美は尋ねた。
「ええ、岡崎で塾の講師をしていた頃、好きで近くのジャズ喫茶によく行っていたんです。そこへ彼も来ていましたから、仲良くなったんです」
「そうでしたか・・・しかし、私も有紀さんとは運命的なきっかけでしたけど、明雄さんと安田の出会いもこうしてみれば運命的だったのですね。あの時自分を諦めなくて良かった・・・有紀さんのおかげだわ」

娘の裕美が自殺した夜、有紀と仁美は互いに励ましあっていた。もし仁美が有紀に電話をしていなかったら、今の状況は無かったであろう。安田と明雄が繋がっていることは、有紀が安田と話す機会が無ければ知りえなかった事だったからだ。

「仁美さん、本当にそうね・・・私があなたを救いそしてあなたに救われたのよね。最後は安田さんとあなたが幸せになることだけよ。もうすぐね・・・早く連絡が来ないかしら」

有紀の携帯が鳴った。
「安田さんからだ・・・車を駐車場に入れたから、下で待っているって。じゃあ行きましょう・・・」
3人は身軽にしてエレベーターで降りて行った。エントランスの向こうで安田は待っていた。何年ぶりに仁美と逢うのだろう・・・

「やあ、久しぶりだね逢うのは・・・」
「ええ、そうね・・・元気そうで良かった」
「ああ、キミも変わらないね・・・ボクは老けただろう?」
「10歳違うから仕方ないよ、でもやさしい顔付きになったね。私はどう?」
「綺麗だよ・・・有紀さんに負けてないよ」
「そう、嬉しいわ。有紀さんとは同じじゃないけど、これからは負けないように自分を気遣うつもり・・・裕美のこと、本当にごめんなさい・・・私が悪かったの・・・」
「仁美、責めるな。一番いけないのはボクだから・・・これから二人で償ってゆこう・・・お互いの命が尽きるまで。今までのボクを許してくれないか?」

仁美の目から涙がこぼれた。有紀は肩をそっと支えながら、ポンと叩いた。
「はい、私こそ許してください・・・あなたの傍にずっと居たいです。今でも好きです、構いませんか?」
「仁美さん、よく言ったわね。偉い・・・」有紀は拍手を送っていた。

4人は歩いて予約してあるイタリアンレストランに向かった。有紀は明雄と手を繋いでいる。それを見て仁美は自分から安田の手をそっと握った。ちょっと驚いたようにした安田ではあったが、明雄と有紀の熱々振りを見せられて自然と仁美の手を握り返した。傍目にはいい年齢の夫婦が手を繋いで歩いているのだ。知り合いが居たら少し恥ずかしくなるかも知れない。しかし、今はお互いに何年もの時を経て再会したもの同士だったから遠慮など何処吹く風で熱い気持ちが他人すら近づけないような熱気を放っていた。

レストランに入って食事を済ませて有紀は安田に改めて今回のことで礼を言った。
「安田さんとの出会いと仁美さんとの出会いが無かったら私は永久に明雄さんとは逢えなかったと思います。本当に引き合わせてくださってありがとうございました。これからも仲良くお付き合いさせて下さいね」
安田は仁美の顔を見てどちらが返事するのか間合いを開けたが、すぐに
「有紀さん、礼を言わないといけないのはこちらですよ。裕美のことも仁美のことも何も知らなかったボクでしたから。あなたのおかげで今度こそ幸せになれそうな気がする・・・いや、幸せにする。たとえ今の仕事を手放しても仁美は手放さない覚悟だよ」
「安田さん、よく言って頂けました。有紀は嬉しいです。有紀もどんなことがあっても明雄さんの傍を離れません。ずっと一緒に暮らしてゆきます。聞いた話なんですが、来年明雄さんこちらへ仕事を変わるお手伝いをして頂けるとか・・・本当なのですか?」
「有紀さん、ご心配でしょうね。私に任せていて下さい。この年齢ですから最前線は無理ですが、なんといっても京大出だし、塾の経験もあって頭が良いから、パソコン関係の仕事で先方と折り合いをつけています。ボクも定年したらそちらでお世話になろうと考えていますので、ちょうどいいタイミングなんですよ、明雄くんが大阪に戻ってくるならね」

有紀はそう安田から聞かされて安心した。一年間明雄を待っていても間違いは起こらないと思い始めていた。4人の尽きない話を天国の裕美はきっと微笑んで聞いているに違いない。