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てっしゅう
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「忘れられない」 第六章 再会

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「そんな風に思わないで。私とあなたが暮らしてゆくのはお互いが苦しみも悲しみも共有するっていう事なのよ。じゃなきゃ結婚なんて出来ないし、してはいけないって思うから。それぐらいの覚悟はしてるのよ」
「ありがとう、なんていったらいいか・・・」
「ねえ、明雄さん。もう昔の事は二人にとって過ぎてしまった過去なんだから、引きずらないでこれから楽しくやってゆけるように気持ちを切り替えましょうよ。男らしかった明雄さんが好きなの。リードして行って欲しい・・・」

明雄の目から大粒の涙が零れ落ちた。有紀はそれを見て愛おしくなったのか抱きついた。温かい有紀の身体のぬくもりを感じて明雄はこの幸せを壊さないようにしようと心に誓った。
目と目が合って自然に唇を重ねた。昔の有紀と違って、重ねた唇の温もりが有紀の身体に火をつけた。我慢していたものが敏感な所に流れ込むように全身が熱くなってきた。髪を撫でられても、吐息が漏れる。明雄はそれに気付いたのか、有紀をさっと抱えてベッドの方へ歩き出した。首筋にしがみつくように有紀は両手でしっかりと掴まっていた。

心の中で、「明雄さん・・・ずっとあなたを待っていたのよ。恥ずかしいけど今夜が初めて。優しくしてね」そう呟いていた。ベッドに身体を置かれて横座りした明雄の顔が真上にあった。
「有紀・・・大好きだよ。僕はもう絶対に離さないから・・・」
そう言われて、安心出来たのか、明雄に任せるようにされるままになり、生まれて初めて男性を受け入れた。これで明雄とひとつになれたと有紀は強く感じた。

部屋に朝の光が差し込んできて有紀は目を覚ました。隣で明雄が寝ている。生まれたままの姿で二人とも一つの毛布に包まって寝ていたのだ。明るくなった部屋で全部を見られるのはさすがに恥ずかしい。有紀はこそっと抜け出して着替えをしようとした。

「有紀・・・もう少しここに居て欲しい・・・」
「明雄さん、私もそうよ。でもこんな明るくなって恥ずかしいの」
「何がだよ?どこが恥ずかしいの?」
「いや、知ってるくせに・・・男と女は違うのよ」
「今のボクにはあの頃のキミにしか見えないよ。うそじゃない」
「そんな事あるはずがないじゃないの・・・」
「こちらを見て・・・」そう言われて有紀は明雄と顔を合わせるように振り向いた。
「やっぱりそうだ。変っちゃいないよ。二人には同じ時間が流れたんだよ。キミだけが年を取ったのじゃない。気持ちが同じなら変わらずにこうして見つめ合える・・・綺麗だよ、有紀。身体だってぜんぜん変わってないし・・・」明雄の手は有紀の肩先から腕に、そして毛布に隠れている膨らみに触れた。

「朝なのよ・・・困るわ・・・」
「何が、困るの?好き同士なんだよ・・・」
「明るいし恥ずかしいから・・・気持ちだけで嬉しいわ」

明雄はその声を遮るかのように有紀を求めていった。男と女ってこうするものなのか、そう諦めながら有紀は身体をゆだねていた。

ダイニングテーブルに座って二人は朝食を採っていた。恥ずかしさを残しながら有紀は明雄を見つめる。ずっとこうして二人で朝を迎えて、暮らしてゆけるだろうか。一時的な夢物語で終わらないことを祈っていた。

安田から電話があって、今夜の食事場所を決めておいて欲しいと頼まれた。有紀は駅前のイタリアンレストランにしようと明雄に同意を得て予約する事にした。

朝晩の冷え込みもなくなってきたこの頃にしては少し肌寒い日になった。天気が良いので有紀は明雄と散歩に出かけることにした。

寝屋川パークの周りを散歩する明雄と有紀は、誰が見ても仲の良い夫婦のようだった。時々いつものジョギングで出会う少し年配の女性からも、「今日はご主人様とご一緒なのね」と声をかけられた。「ええ・・・」と答えて自然と笑顔になった有紀は、「明雄さん、やっぱり夫婦に見えるのね私たちって」と尋ねた。同じように笑顔で、「そうだろうなあ・・・こんな美人の奥さんでボクは幸せだよ。いつまでもキミを離さないぞ、いいだろう?」

「えっ・・・どこかで聞いたセリフよそれって、もう笑わせるなんて、こんな真面目な時にいけない人ね」
「ハハハ・・・そうだな。でも嬉しいよ。昨日有紀に逢えてから本当に気分が良くなってきて、気持ちが明るくなってきた感じがする。一年も今の仕事を頑張ったら借金が返せるので、その時に正式に迎えに来るよ。それまで、ボクは名古屋に居る。構わないだろ?ボクが1回そしてキミが1回逢いに来るって決めないか?」
「我慢できないから言うんじゃないのよ。でもね、また離れたら・・・もう逢えなくなってしまうように感じるの。お金の事は昨日も言ったけど一緒に返してゆきましょう。私が名古屋へ行っても構わないし、とにかく離れたくはないの」
「有紀・・・気持ちは同じだよ。でもお金の事は自分でけりをつけたいからこれは譲れないよ。心配しなくても大丈夫だから、一年なんてあっという間だよ。な、そうさせてくれよ」

有紀は悲しくなってきた。ずっと一緒に暮らせると思っていたのに、一年も待てと言われたからだ。
「じゃあ、名古屋へ行くわ。あなたの家に一緒に住めないの?」
「ええ?ここはどうするの?解約してから来るの」
「いいえ、ここはそのままよ。お家賃は一年分払ってから行くわ。どうせ仕事見つけなきゃいけないからあなたの近くで探そうかしら」

明雄は有紀が来ることに反対をした。特にはっきりとした理由を言わなかったので、何か都合の悪い事でもあるのだろうかと有紀は疑い始めた。

「ねえ、明雄さん。私に何にも隠していない?」
「隠してなんかいないよ。どうしてそんな事を言うんだい?」
「狭くても構わないのよ、一年間だし。一緒に居たいの・・・何故拒むの?」

明雄は有紀を納得させる理由を探していた。

明雄は塾を解散させるまで同じ塾の講師をしていた女性と暮らしていたことがあった。結婚はしなかったが、明雄が無職になってぶらぶらし始めた頃、愛想をつかして出て行ってしまったのである。家の中にはその時の思い出の品がたくさん残っていて、有紀が来る前に全部片付けることは困難だと明雄は思った。

昔のことだから有紀は怒ったりはしないだろうけど、有紀の一途な生き方を聞いて、自分が乱れた生活をしていたことをいまさら表沙汰にしたくないと考えた。何とか仕事を見つけて、また楽しみにしていたジャズ喫茶に行き始めて、安田と仲良くなったのだ。

「有紀、ボクを困らせないでくれ。キミに逢えた幸せを壊すような事はしない。約束する。証明が必要なら婚姻届を出そう、それでも構わないよ。けど、一年ほどは名古屋で一人で頑張る、それだけは譲れない・・・逢いに来るから、寂しい想いはさせないから、ね、お願いだから解って欲しい」
「それほどまでに気持ちが固いのなら仕方ないわね。それで一年過ぎてお金を返したらどうするつもりなの?聞かせて」
「安田くんの会社の取引先で大阪に支店を出す話しがあって、来年人を募集するらしいんだよ。それとなくボクを推薦してくれるように頼んでいるんだ。キミと逢う約束よりも前に、安田くんが大阪に来た時にそんな話をしてくれたから、乗ろうかと頼んでいたんだよ」
「ほんと!大阪で働けるの?」