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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「忘れられない」 第六章 再会

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第六章 再会



ソファーに腰を下ろした明雄はぐるりと周りを見渡して、最後に有紀の顔を見た。
「有紀は変らないね・・・とても綺麗だ。僕はこんな風になってしまったから、恥ずかしいよ。似合わなくなってしまったね」
「何言ってるの・・・明雄さんも昔のままよ。私こそ、おばあちゃんになってしまったわ」
「そんなことないよ。安田くんが言ってたとおりの人だ。とても綺麗な人が同じマンションに住んでいるってね」
「私の事?もしかして・・・そんな風に見てらしたのかしら」
「男はみんなそうだよ。綺麗な人に魅かれる・・・有紀みたいな特別の女性には特にそうだよ」
「明雄さん・・・もう辞めて。普通でいいの。私には明雄さんしか見えてないから・・・こうして逢える日が来ると信じて自分を大切にしてきたの。それだけ・・・ねえ、安田さんのこと聞いてる?」

有紀は話題を振った。仁美のことを知っているか聞いたのだ。

「安田くんのこと?・・・奥さんが居たって話は知ってるよ」
「知らないのね?そう・・・話してもいいかしら?」
「今は仲良くしているから知っていることがあったら聞きたいな」
「私の仲の良い友人がね、仁美さんって言うんだけど、安田さんの奥様なの。さっきまで会ってたのよ」
「そうなの・・・奥さんが大阪にいるとは聞いていたけど・・・有紀と親しいだなんて凄い偶然だなあ」
「そうでしょ。亡くなった仁美さんの娘さん裕美さんが引き合わせてくれたと思っているの。以前安田さんの部屋に一人で暮らしていたからね。彼女が私と明雄さん、そして安田さんと仁美さんを逢わせる機会を作ってくれたのだと、信じてるの」
「何で亡くなったの?安田くんの娘さんは」
「自殺したの、不倫が元で鬱になって・・・私が早く気付いてあげれなかったことがとても心残りなの。一番親しくしていたのに・・・」
「そんな事があったのか・・・苦労したな、有紀も。なあ、逢ってすぐになんだけど、これからは二人でやり直さないか。すぐじゃなくてもいいんだ。有紀の気持ちが落ち着くまで待つから」

有紀は裕美のことを思い出して泣き出してしまった。明雄との長い空白の時間もそれに追い討ちを掛けるように心の中に広がってゆくのだった。

有紀が泣き止むのを待って明雄は話を続けた。
「相変わらず優しいね、キミは。その純真な心は昔のままだね。ボクなんか汚れてしまって・・・安田くんから有紀の話しを聞いた時は一瞬迷ってしまったよ。逢う資格なんかないって・・・父がなくなり、塾を閉鎖して希望がなくなったとき、有紀を思い出して・・・それで手紙を書いて住職に渡す旅に出た。ボクには一番思い出のあった場所だからね。もう有紀と逢う事はないと考えていたから、あの世で逢いたいって書いた。死のうとは思わなかったけど、いつ死んでも構わないって・・・安田くんに出会わなかったら本当に自分を見失っていたかも知れないね。僕にとって恩人だよ、彼は。有紀が一人で暮らしていたなんて考えなかったから、何人かとも付き合ったりはした。結婚は懲りたからしようとは思わなかったけど、どうして探そうとしなかったのだろう・・・もう一度どうして有紀に逢おうって考えなかったのだろう」
「明雄さんは今でも私の事が好き?ううん、今からでいいの、好きになってくれる?」
「もちろんだよ。約束する。キミとこうして逢えた事が夢のようなんだ。もう離すもんか!」
「私は明雄さんが結婚したって聞いたとき、自分が諦め切れなかったの。いろんな人から結婚を勧められたけど、断ってきた。そんなに簡単に違う人と一緒になんかなれないものね。母の病気のことや自分の仕事のことでストレスがあったから、毎日が追われるように過ぎていったの。気がついたら母が亡くなり、自分が病気になって会社を辞めたりして・・・あなたと同じ自分を取り戻すために思い出の妙智寺へ行ったの。住職からあなたの手紙を渡された時、今このときの思いを信じて行動してきたの。全てはあなたと同じ妙智寺から始まったのよ」
「そうだったのかい・・・見えない何かに引き寄せられるように僕たちは今日逢う運命だったんだね。もっと早くに気付くべきだったよ、有紀のこと。許してくれ・・・今のボクには昔ほどの力はないけど、有紀を幸せにしたい。待っていてくれた30年間の空白を必ず埋めるから、結婚してくれ」
「明雄さん本当に?若くはないのよ私は、それはわかるよね。構わないの?」
「ボクだって今年55歳だよ。でもね、若いって感じるんだ。だってね、有紀のことこんなに好きになれるんだよ!気持ちはあの頃と変わらないよ。キミだって同じだろう?」

うん、と頷く有紀だった。

時間があっという間に過ぎてゆく。時計を見たら9時を廻っていた。
「ごめんなさい、こんな時間まで引き止めちゃって・・・お腹が空いているでしょう?安田さんもきっと気にされていると思うから電話して下さらない?」
「そうだね。そうするよ」

「安田くん、遅くなってゴメン。どうする?晩ご飯・・・そう、ちょっと待って。有紀、一緒にどうだって言ってるけどどうする・・・いいんだね、返事するよ・・・じゃあ、今から出るよ」
電話を切って明雄は有紀と部屋を出た。安田と三人で近くのファミレスに入って食事をした。安田は明雄に明日の夕方仁美が来ると告げた。よければ4人でまた食事しようと提案した。有紀と安田はそれがいいねと返事をした。食べ終わって帰り道、安田は有紀に向かって、
「今夜はあなたの所に石原さんを泊めてやってくださいませんか?二人の雰囲気を見て構わないかなって思ったから」
明雄は少し遠慮気味に、
「安田くん、急に失礼だよそんな事言って・・・」
有紀は明雄の目を見て、「いいわよ」とだけ言った。

安田の部屋から自分のバッグを持って明雄は有紀の部屋に来た。
「悪いね、なんか気が引けるなあ・・・いくら好き同士だからって逢ったばかりで」
「いいのよ。遠慮なさらないで。お風呂入れるわね、待ってて。そこに座ってらして、テレビでもつけてゆっくりしてて」
「うん、そうするよ」

有紀は困っていた。自分が寝る布団はあるけど、明雄の分がないのだ。ベッドだから布団の用意をしていなかった。二人で寝るには十分なサイズのベッドではあったが、逢っていきなり・・・と考えるとちょっと抵抗が感じられたのだ。どうしようか迷った・・・あの時のようにまた「何もしないで!」と言って一緒に寝る事になるのだろうか、と。

明雄はこれまでのことを話してくれた。有紀はそれを聞いて辛い思いをしていたのは自分だけではなかったと感じていた。自分のことを忘れることなく思っていてくれたことが救いにもなった。

「有紀、ボクは父がやっていた塾の破綻で借金があるんだ。金額は返してきているからそんなに多くはないけど、言っておかないといけないと思って話すよ」
「そう・・・大変ね。でもそれは必ず返済しないといけないから私も応援するわ。今は仕事していないから無理だけど、あなたと暮らすようになったら働いて一緒に返して行きましょう」
「有紀、それは頼めないよ。ボクの責任だから。そんなことしたら一生キミに頭が上がらなくなるよ、いまでも肩身が狭いのに」