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てっしゅう
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「哀の川」 第六章 直樹の独立

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「うん、お兄さん今度遊びに来て!お話したいから、ねえ、ママいいでしょ?」
「はい、ママもそうしたいわ。今夜はみんなで食事しましょう。そうだわ、オークラに予約しましょう。ねえ、お姉さんもいいでしょう?」

話がまとまって五人で食事をオークラですることになった。相変わらず愛想の良い支配人が席を準備すると応対した。

最後のダンスが終わって、いよいよ結果発表のときを迎えた。

初めにジュニア部門の結果発表、次にハイスクール部門の結果が告げられ、一般の部になった。種別でタンゴ部門の首位に選ばれた直樹と麻子は、それだけでも嬉しく思っていたが、最終選考に残って、総合一位の発表を待っていた。会場内のアナウンスに始まる。

「お待たせいたしました。1991年大会最優秀ペアーは・・・タンゴ部門優勝の斉藤直樹さんと山崎麻子さんのペアーです!」
ファンファーレが響く中、二人はひときわ高い表彰台に乗り、会場からの拍手に向かって手を振って応えた。そして抱き合い、キスをした。役員も会場にいた全員が温かい拍手を贈ってくれた。審査員の挨拶で、二人の新しく取り入れたスタイルが好評になり、今後の一つの模範として広めたいと賛辞を戴けた。裕子は二人のダンス講師として紹介され、山崎裕子ダンススクールは全国にその名を知らしめた。

赤坂見附に移動して、予約したレストランに五人は到着した。支配人の用意周到な気配りは、麻子たちが優勝したことを祝福する会場に変っていた。
「大会優勝おめでとうございます!心よりお祝い申し上げます」
テーブルに置かれたシャンパンは支配人からのプレゼントだった。気分を良くして、食事が始まった。純一は直樹の隣に座りなにやら話が弾んでいた。時々笑い声が聞こえる。麻子は気になった。

「純一、楽しそうね、何を話していたの?」
「ええ?気になるの・・・男同士の秘密だよ!ねえ、お兄さん?」
「そうだそうだ、秘密だ、純一君、ハハハ・・・」
「ママに言えない事なの?なんだか嫌な予感・・・」
「麻子、気にしなくていいよ、どうせ恥ずかしいような話題だから、男の人って大抵は・・・」裕子が口を挟んだ。

楽しい時間はあっという間に過ぎた。今日は直樹も山崎家に泊まる事になって、純一の部屋に無理やりつれて行かれた。これには麻子も裕子も苦笑していた。かわいそうに・・・と言う思いと、なんだか素敵なコンビに嫉妬するような入り混じった気持ちで眺めていた。


世間は桜の季節を迎え大会当日は皇居の桜も散り始めた美しい時節でもあった。裕子は以前から心に引っかかっていた、加藤美津夫との再会の時間を持つ事を決意した。電話をかける、ベルが鳴る、「もしもし」と低い声の主が出た。

「裕子です・・・ご無沙汰しています。大会は無事昨日終了しました。約束のとおりにお電話しました。元気にされていましたか?」
「裕子・・・か、久しぶりだね。今自宅からかい?結果はどうだったの?」
「ええ、麻子と斉藤君のペアーは優勝したわよ。頑張って練習した甲斐があった。あの二人はとても気が合うようね」
「そうか、麻子さんって・・・結婚してたんじゃなかったのかい?」
「そうよ、殆ど離婚しそうな状態だけど、正式には別居状態よ」
「ふ〜ん、なんだか不思議な縁だなあ。斉藤君が麻子さんと出来て、僕が裕子とこうして話しているなんて・・・」
「そうね、時代が変わって行くって感じかしら。わたしはたくさんの男性を見てきたけど、あなたのことがいつも心のどこかに残っていてダメにしてきた。あなたは私のことが残っていて好子とダメになった。これも運命なのかも知れないね。長すぎた気はするけど・・・」
「なあ、今から出てこないか?渋谷まで行くよ。ほらよく行ってたバーがあるだろう?まだあったら行きたいね。そこの前で待ってて欲しい」
「今から?そうね、支度して、一時間後ぐらいになるわよ、いい?」
「ああ、嬉しいよ。すぐに行くから・・・」

裕子は電話を終えて、これでよかったのかと考えたが、逢ってみて気持ちが昔と変らない事が確認できたら、ゆっくりと付き合って行こうと、思っていた。出かけるときに、麻子が玄関に来て、裕子に抱きついた。

「麻子!何するの?」麻子は涙を浮かべて裕子を見つめた。
「姉さん、加藤さんと逢うんでしょ、ずっと耐えてきたんだったら、もう何も迷う事はないよ。私たちのことなど気にしないで、自分の思いを貫いてね・・・姉さん・・・」普段泣かない裕子も、麻子のいじらしい気持ちに、涙が溢れてきた。二人はずっとお互いをかばい、励まし生きてきた姉妹だから、本当の気持ちが感じられるのだ。