<名探偵とうじょう(バレンタイン・ミステリー)>
「でも何故ここって……」
全てを言い終わらない内に秀美はボクの手を掴んで神社の石段を登って行った。
階段を登りきる少し前、先を行く秀美が急にしゃがんだので、ボクも思わずつられてしまった。
ちょっとだけ覗いてみると――。
神社の境内に島田かれんが立っていた!?
わけが分からず立ち上がろうとするボクの腕を秀美がグイっと引っ張って、階段横の茂みに引きずり込んだ。
「痛いよ! 何すんだよー」
ボクの抗議などお構い無しに秀美はもう少し茂みの奥へ入って行く。
仕方が無いのでボクも付いて行った。
「もう謎は解けたわね?」
秀美はニカッと笑ったが、ボクは目をまるくするだけだった。
ボクの反応を見た秀美も一瞬目を丸くし、そしてため息をひとつついてこう言った。
「これは、かれんちゃんの狂言よ 実は始めから学校にはチョコレートなんて持って行ってないの」
「加藤君だっけ? カレが見たのは空っぽの包みね。きっと誰も見ていない時に机の中で小さく畳んでポケットにでも仕舞ったんだと思うわ」
そうか、持ち物検査では加藤のハナシ(かれんちゃん本人じゃなくて)から少し大き目の包みを探したので、ポケットなんか探さなかったっけ?
「あのへんな暗号文だってそうよ。ワープロで予め用意しておくのも少しだけヘンでしょ? まるでかれんちゃんがチョコを持って来るって知ってたみたい……」
「そして……」
言いかけて秀美は口をつぐみ、指を口にあて「しぃ~」とやった。
誰かが神社の階段を駆け足で登ってくる。
気が付けば夕暮れももうすぐという時間だった……。
作品名:<名探偵とうじょう(バレンタイン・ミステリー)> 作家名:郷田三郎(G3)