<名探偵とうじょう(バレンタイン・ミステリー)>
「ロサンゼルスかなぁ?」ボクが思わず口を挟んだ。
「あ、修くんそんな事知ってるんだ」
秀美がまるで姉さんのような口ぶりで返す。
「でも違うわ。もっと日本的なモノだと思う。言いまわしが時代掛かってるでしょ?」
自信有りげだケドどうも根拠があるとは思えない……。
「難しいのは金石のほこらね。これは普通にカネイシと読まない方がいいかも。あれを書いた人は結構ユーモアのあるコだと思うナ……」
「例えば!?」
藤井が凄い顔で突っ込んできた。
藤井は柔道は物凄く強いケドどっちかというとおっとり系だ。
その藤井をしてこんなに興奮するとは……。
実は本気で島田さんの事が好きなのかも知れない。
「そうねぇ、金はカネとかキンとかコンとか……。石はイシでも良いしセキとかシャクとか、コクとも読めるでしょ? まあ、もうちょっと考えてみるから……。ところで修くんこのクラスの名簿って貰えるんでしょ? 悪いけど後で先生に貰ってくれる? 何かと面倒を見てくれるんだよね?」
ニカっと笑う顔は小さい頃の秀美そのままだった。
今年のバレンタインデーはこうして、いつにも増して落ち付かないまま終わっていった。
それでも、あまりおおっぴらでなく、バレンタイン・チョコのプレゼント大会はあちこちで行われていたみたいだ。
もう事件の事なんかすっかり忘れて浮かれているヤツも結構いたりする。
ボクも義理チョコを三個貰ったケド、それはクラスの男子全員に配られた物の一つだからね。
「はい、義理チョコね」って渡されると、解かってはいても結構凹んでしまうんだ……。
島田かれんは授業が終わると逃げる様に帰ってしまった。
きっとあの事がショックだったに違いない。
ボクは犯人が許せない、と思った。
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作品名:<名探偵とうじょう(バレンタイン・ミステリー)> 作家名:郷田三郎(G3)