<名探偵とうじょう(バレンタイン・ミステリー)>
「みなさんこんにちは、東城秀美です。早くみなさんと仲良しになりたいので宜しくお願いします」
その少女は丁寧にお辞儀をして顔を上げると長めの髪の毛を両手で後ろに振り払った。
黒ブチの大きなメガネをかけてはいるが、正真正銘、あの秀美がそこに居た。
「じゃあ東城は修太郎の後ろの席に座ってくれ。あ、視力は大丈夫なのか? 見難い様なら後で席替えをしような」
そう言って出て行こうとした先生が顔だけを戻した。
「そうだ、言い忘れたけど東城は修太郎の従姉だそうだ。おい修太郎、なにかと面倒みてやれよな」
先生がぴしゃりとドアを閉めるとクラス中の好奇の目がボクと秀美に集中した。
先生のやつ余計な事を。ボク等の年代ではそういうのが結構微妙だって事が解かってない。
二時限目の終わりの休み時間、いつもは来る事なんて無い加藤やマンジーこと真嶋達がボクの席のまわりに集まってきた。
「よう修太郎、GT学園殺人事件だけどさあ、犯人のめぼしはついたか?」
(おいマンジー、あからさまに後ろの席をチラチラ見ながら話すのはヨセよ……)
ちなみにGT学園殺人事件というのは、人気の男女アイドル達が総出演するということで話題のTVドラマだ。
タイトルがウチの学校と同じという事で我がGT学園ではとりわけ人気が高いのだ。
「ねえ東城さん、ティーサツ(GT学園殺人事件の略だよ)見てるでしょ? もう犯人が誰か検討がついた? ってゆーかあん中じゃ誰のファン?」
マンジーはいつも調子が良い。人見知りしない性格はボクにとっては羨ましいかぎりだ。
でも、秀美は帰国子女だ。ボクは話しを合わせるのは無理だろう、と思った。
「あたし、好きなタレントっていないの。でも犯人なら教頭よ。学校設備の入札に絡む不正がばれそうになって、というか業者と密会しているところを見られて生徒三人を殺したの。四人と言われた被害者に一人だけ自殺した子がいて事件を面倒臭くしてるだけよ」
秀美はサラっと言ってのけた。TVは見ていないハズなのに……。
「ナルホド! そう考えればつじつまは合うけどサ、なんか凄い自信だね。TVは見てないんだろ? 秀美――チャン」
作品名:<名探偵とうじょう(バレンタイン・ミステリー)> 作家名:郷田三郎(G3)