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表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(前編)―

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桜沢美雪を、この手で、殺す。
レンを傷つけた代償、きっちりと支払ってもらう。

「そろそろ、霧崎組について、きちんとした説明をしなくちゃいけないわね。」
ゆりが、そう言ってスクリーンの前に立つ。
「では、講習を始めましょう。」
部屋の明かりが消され、スクリーンに映されたのは――。
「まずは、霧崎組そのものに関する説明よ。紫苑、入隊当時、聖邪鬼組の話をしたのを覚えててる?」
「ああ。……そうだ、お前らが狙ってたのは、その聖邪鬼組じゃなかったのか?」
「ええ。あたしたちも、ずっとそう思っていたのよ。でも、ここ最近の調査で、とんでもない事実が分かったのよ。」
ゆりがパソコンを操作すると、スクリーンにある図が映し出される。ゆりは、指し棒で見るべき場所を示しながら、説明を始める。
「聖邪鬼組というのは、架空の組織よ。まあ、架空って言っちゃ言い過ぎなんだけど、実体のない、ゴーストよ。これを隠れ蓑にして暗躍しているのが、霧崎組。」
「えっと、どういうことだ?」
「つまり、霧崎組と聖邪鬼組はイコール。『聖邪鬼』なんて派手な名前も、目くらましの一環ね。色々とド派手な聖邪鬼組を前面に押し出して、注目を集めている間に、霧崎組が静かに暗躍する。その成果を、聖邪鬼組のものとして誇示することにより、聖邪鬼組の名声はますます上がる。そういうカラクリよ。以下無限ループ。」
「それで更に暗躍していく、と。」
「ええ。アークすらも長年出し抜いてきているわけよ。次に、組織形態について説明するわ。」
スクリーンの図が切り替わる。
それは、霧崎組を頂点に置いた、組織図だったのだが……。
「おい、待て!何だこの数は!」
傘下組織の総数は、軽く100を超えていた。
だが、他の全員にとっては当然のことなのか、誰も驚いていない。
「まあ、こんだけデカイ組織ってことよ。でも、あたしたちが狙う組織は一つだけ。そう、霧崎組だけよ。」
「だが、狙うってどういうことだ?」
「霧崎組は、結構大きな組織だから、皆殺しってのはちょっとキツイわね。だから、全員刑務所にぶち込んでやるわ。」
「だが、霧崎の情報操作をどうかわすつもりなんだ?」
「霧崎組は、大きな組織だけど、構成員を厳密に管理しているわ。そして、そのデータは毎日更新され、その最新データは、霧崎平志が常に持ち歩いているわ。それを奪って、警察にリークする。」
「そうか。」
え?どうやって奪うかは決めないの?
そう思った俺が尋ねると、
「え?殺すに決まってるじゃないの。」
何を今更、と言いたげな顔で返された。
まあ、俺も桜沢美雪をどうするつもりかって尋ねられたら、似たような反応を返すだろうしな。

その後、俺たちは、被害が酷かったという群馬事務所のほうへ向かった。
まあ、支部長の視察のお供兼護衛だ。
車をわざわざ出す余裕もない(ほどに人員が設備の復旧その他雑務に追われている)ため、電車での移動だ。
武器はどうするのかと思ったら、服の内側に拳銃だけを隠している。
「私服の状態でトラブルに巻き込まれたら、隠れてやり過ごしつつ仲間のフォローを待つのが基本ね。」
ゆりが言うにはそういうことで、銃はあくまで最後の手段らしい。
職務質問その他で銃の所持がバレたらどうするのかと聞くと、謎のカードを渡された。
名刺サイズの、白地に、黒で『令雨ムハ』と書かれた、謎のカードだ。
本当に、紙の真ん中に、等間隔で『令』『雨』『ム』『ハ』と書かれている他には、何も書かれていない、地味なカードだった。強いて言えば、縁を金の刺繍で囲んでいるだけだ。
「職務質問はこれでパスできるわ。意味は知らないほうが身のためよ。」
と、言っていた。
視察のほうは難なく終わり、特にトラブルもなく東京へ帰ってきた。
ただ、問題は、東京、しかも光坂に帰ってきてから発生した。
俺たちが帰ってきた時間帯は、光坂の駅に人があまりいない時間帯だった。
とは言っても、そこそこの利用者がいて、雑然としているのだが。
電車を降りて、階段へ向かっているときだった。
隣を、ある女が通り過ぎた。
「あら、皆さん。ごきげんようですわ。」
反射。
それは、反射だった。
理性も何もかもが吹っ飛び、本能と反射神経のみが活動し、それはすなわち、即座に振り向きながら銃を――
「やめなさい。人が見てるわ。」
「あら。賢い選択ですわね。」
「こんなところによくもまあしゃあしゃあと出て来れたものね。武器を使わなくても、拉致して蛸殴りにするくらいは余裕で出来るわよ。」
「怖いですわね。そして、いつの間にかわたくしを囲むのは、やめて頂きたいですわ。」
気付くと、本当にいつの間にか、俺とゆり以外の全員が桜沢美雪を取り囲んでいた。
「大体、あたしたちの監視網に引っかかるとは考えなかったのかしら?」
「その心配は無用と判断いたしましてよ。アークは今、復旧と調整に大忙しなのでしょう?街の監視に割く余力があるとは到底思えませんわ。」
俺は、今もなお、気を抜いたらこの女に殴りかかりそうだ。
ひょっとしたら、銃を抜いて射殺してしまうかも知れない。
堂々と線路に突き落としてしまうかもしれない。
だが、ゆりがそれを許さない。
頑として、させない。
俺の手に籠められた力が、俺を、物理的にではなく精神的に拘束する。
手に籠められた力。
正直言って、とても、痛い。
その力の強さが、ゆりがどれだけ苦労して自身を律しているかを表している。
「それで?あなたは危険を冒してまで、この街に何をしに来たのかしら?」
「決まっておりますわ。最終調整でしてよ。」
「調整ねぇ?」
「ついでに、視察も少々。」
「視察、ですって?」
「ええそうですわ。関東支部の拠点の様子を、観察致しましてよ。あの様子じゃ、明日までに準備を終える事は不可能ですわね。」
「へぇ。あなたたちのアカウントは全て停止処分にしたはずだけど?」
「一切問題ありませんでしたわ。そもそも、わたくしの顔は全く知られておりませんもの。サングラスの一つでもしていれば怪しまれる事はありませんわ。あなたがたが群馬のほうへ行くのは分かっておりましたから。中へ入るのは、他の方の出入りに紛れれば余裕で出来ますわね。」
「まあいいわ。確かに、警戒が甘くなっているのは否めないわね。で?最終確認って、わざわざ何を確認していたのかしら?」
「さあ、教えると思いまして?」
「何?知られると阻止される程度の矮小な物事でも計画してるのかしら?相変わらず、小さいわね。」
「またしてもわたくしを侮辱しますのね。また痛い目に遭いたいとお見受け致しますわ。」
「その『痛い目』にしても、殺し損ねるという失態つきだけどね。」
「わざと生かしたことくらい分かりませんの?あなたたちの所業が知れることこそ、最大の痛みではなくて?」
「でも、蓮華があたしたちのことを告発したら、あなたたちも終わりよね。きちんと考えてるの?後付でしょ?」
「そう思いたければいくらでも思っていればよろしいのですわ。今日中に復旧作業を終えられないあなた方は、どうせわたくしたちには勝てないのですわ。」
「へぇ?どういう意味かしら?」
「分かりませんの?あなた、本当に無能な指揮官ですのね。」