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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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降誕祭の夜

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途中、買い物をして家に着いた私達は、何十年振りかの家族3人勢ぞろいに興奮して話は尽きなかった。
母は認知症を発症する前の元気な頃の母に戻り、私の1人暮らしで荒れた台所に文句を言いながらもクリスマスの食卓を整えてくれた。

その間パパは向こうでの生活を面白おかしく語り、私はパパが突然いなくなった後の母と2人の生活や今の仕事、数年前から別居しているが元気でいるであろう妻と子供達の事を話した。

パパはうんうんと聞いていたが、きっと全部知っていたんだろう。


「でも、ズルいわ、パパだけ」
「うん?何がずるいって?」
「パパは昔と何も変わってないけど、私はこんなオバアチャンになっちゃったわ・・」
「大丈夫だよ、ママ。向こうに行ったら一番幸せだった頃の姿に戻るんだよ」
「本当に?そうなの?」
「うん、だからパパは、ママとヒロシと3人で暮らしてた頃が一番幸せだったから・・そのままなんだよ」
「そう・・良かったわ、それなら」

40年振りの親子3人揃っての夕食の後、私は気になっていた事を聞いた。


「パパ、その不二家の紙袋は?」
「おう、忘れてた。ママ、今夜がどんな日か分かるかい?」

「はい、パパが1人でいなくなっちゃったクリスマスイヴでしょ?!」
「うん、だから・・40年経っちゃったけど、今夜は親子3人でクリスマスやり直そう」

パパは、紙袋から私が大好きだった生クリームのクリスマスケーキを厳かに出した。

「これ買いに行って帰って来なかったのよね、パパは」
「ごめん・・」

「でも、平気なの?40年前の生クリームって!」
私の何気ない一言に、両親が笑った。
「大丈夫だよ、ヒロシ!向こうでは何も腐らないんだ」

母がケーキを切ってくれて、銘々のお皿に盛ってくれた。


「美味しいね、やっぱり」
「うん、ママも大好きよ、不二家のケーキは」
パパも微笑みながら食べた、そんな私と母を眺めながら。

「あ、そうだ・・」
私はCDでクリスマスキャロルを流した。
「きよしこの夜・・か」
「ママ、この曲大好きなの、自然に涙が出ちゃうわ・・」

私も、今は離れて暮らす妻と子供達を思い涙が流れた。
うちにも昔は、こんなクリスマスがあったのに。

両親は黙って、そんな私を見つめていた。
作品名:降誕祭の夜 作家名:長浜くろべゐ