降誕祭の夜
「母さん、また来たよ!珍しい人も一緒だよ?!」
四肢をベッドの隅のパイプに縛られて唸っていた母が、一瞬・・静かになってこっちを見た。
次第に両眼の焦点が合い正気の光を取り戻した母の視線の先には、パパが微笑んでいた。
「ママ、迎えに来たよ」
「一緒に帰ろう、家に」
パパはそう言いながら、母を縛り付けていた太い拘束ベルトを解いた。
母は静かに、そんなパパを見つめてハッキリと言った。
「随分遅かったのね、アナタ・・」久しぶりに聞く、母のしっかりしたもの言いだった。
「うん、ゴメン」
「ヒロシ、ナースステーションに行って外泊の許可貰ってきてくれるか?」
うん、分かった・・と言いながら私はもう走り出していた。
「え、今夜・・ですか?」
「はい、お願いします」
「でも武田さんの状態では」
「いや、今夜は母も気分いいみたいですし、従兄弟も一緒ですから!」
「ご家族の強いご希望でしたら、でも・・万が一の際の責任は・・」
「大丈夫です、一筆書きます!」
ナースが渋々誓約書みたいな書類を差し出して、私は署名をして拇印を押した。
静かにパパに手を引かれて、母は驚くナースに軽く会釈しながら微笑んだ。そして玄関で私達は靴に履き替えた。
「あら、武田さん!随分・・お加減良さそうね!」
「はい、お陰さまで」
「じゃ、今夜はおうちでクリスマスね、メリークリスマス!」
有難う、では行ってきます・・と私達は施設を後にした。