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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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降誕祭の夜

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「母さん、また来たよ!珍しい人も一緒だよ?!」

四肢をベッドの隅のパイプに縛られて唸っていた母が、一瞬・・静かになってこっちを見た。
次第に両眼の焦点が合い正気の光を取り戻した母の視線の先には、パパが微笑んでいた。

「ママ、迎えに来たよ」
「一緒に帰ろう、家に」
パパはそう言いながら、母を縛り付けていた太い拘束ベルトを解いた。


母は静かに、そんなパパを見つめてハッキリと言った。

「随分遅かったのね、アナタ・・」久しぶりに聞く、母のしっかりしたもの言いだった。
「うん、ゴメン」

「ヒロシ、ナースステーションに行って外泊の許可貰ってきてくれるか?」
うん、分かった・・と言いながら私はもう走り出していた。


「え、今夜・・ですか?」
「はい、お願いします」
「でも武田さんの状態では」
「いや、今夜は母も気分いいみたいですし、従兄弟も一緒ですから!」

「ご家族の強いご希望でしたら、でも・・万が一の際の責任は・・」
「大丈夫です、一筆書きます!」

ナースが渋々誓約書みたいな書類を差し出して、私は署名をして拇印を押した。

静かにパパに手を引かれて、母は驚くナースに軽く会釈しながら微笑んだ。そして玄関で私達は靴に履き替えた。


「あら、武田さん!随分・・お加減良さそうね!」
「はい、お陰さまで」
「じゃ、今夜はおうちでクリスマスね、メリークリスマス!」
有難う、では行ってきます・・と私達は施設を後にした。
作品名:降誕祭の夜 作家名:長浜くろべゐ