降誕祭の夜
パパは暫くそうやって微笑んでいたが、急にまじめな顔になって言った。
「パパが何で急に戻ってきたか、不思議だろ?」
「うん、でも生き返ったんじゃ・・ないの?また手違いでさ!」私の淡い希望的観測は、パパの真面目な顔で否定された。分かってたけど・・ね。
「ママを・・迎えに来たんだよ、パパは」
「一緒に行く事になったんだ」
パパの目が真直ぐに私を射った。
「・・怒るか?ヒロシ」
「もう、しょうがないの?変えられないのかな、その予定・・」
「うん、決まった事なんだよ」
「そうなんだ・・・・」
一緒に迎えに行こう・・とパパが言って、私達は夜の街中を車で走り出した。
「母さんも喜ぶね、きっと・・」
「うん、そのために来たんだからね、パパは」
程なく車は施設に着いた。
「あら、武田さん・・またいらしたんですか?」
「はい、ちょっと部屋に忘れ物しちゃって」
「まぁまぁ、お電話頂ければステーションでお預かりしましたのに・・」
「あの、そちらの方は?」
「・・従兄弟です」
私とパパはスリッパに履き替えて廊下を進んだ。
「ちゃんと他人にも見えるんだね、パパ」
「そうさ、今だけ戻ったんだから」
赤や青のLEDライトがちかちか瞬いている背丈ほどのクリスマスツリーが飾られたロビーを横切って、私達は母の部屋の前に立った。
中からは、日中と同じ様な唸り声が小さく聞こえてきた。
「最近の母さんの状態、分かってる?」
「うん、全部知ってる。言ったろ?そのために来たんだって」
「うん・・」私は扉を開けて、ベッドに拘束されている母のもとに行った。