降誕祭の夜
「サンタに言われたんだ、諸般の事情によりアナタは神隠しにあったという事になりましたって」
神隠し?・・聞いた事あるし当時もそんな事を言う人がいたな。
「だから、パパの死体は出てこなかったろう?」
「そうだったよね・・」
私はピースを吸いながらコーヒーを一口飲んだ。
気持ちも少し・・落ち着いてきた様だった。
「続きは?」
「うん、それでな・・・・どうやらパパは新小岩の路上で急死する運命だったらしいんだな、サンタによると」
「急死って、病気か事故でって事?」
「うん、心筋梗塞の予定だったらしい」
「予定?」
「決まってるんだよ、人間の一生ってさ。パパの場合は40年前のその日に心筋梗塞で死んじゃう運命だったんだ」
「・・そう、なの?」
「うん、そうだったんだ。でもな、ちょっと向こうにこみ入った事情があったらしくてさ、中継地点で順番待ちみたいな感じで待たされてたんだ」
「え、40年も?」
「いや、向こうとこっちじゃ時間の流れも随分違ってて、パパにしたらそうだな・・1年位か?感覚としては」
「はぁ~、随分違うんだね」
うん、そうなんだ・・と一口コーヒーをパパが啜る。
「美味しいな、コーヒー・・」
「あっちには、無いの?」
「いや、あるけどヒロシが淹れてくれたコーヒーの方がずっと美味しいよ」
「あっちでも飲んだり食べたりするの?みんな・・」
「うん、するよ。こっちと同じにね」
「・・って事は、お腹空くんだ」
「空くね、でも・・飢え死にはしないな、もう死んじゃってるからさ」
そうか、そうだよね・・死んじゃってるんだもんね・・と私は笑いながら少し寂しかった。
そうなんだ、やっぱり死んでるんだ・・パパは。
でもパパは今ここで、こうしてピースを吸って美味しそうにコーヒーを飲んでる・・死んでるって、間違いじゃないの?本当は生き返ってこっちに戻ってきたんでしょ?と思いながら私はパパを見つめた。
不意にポロっと、涙が頬を転がった。
「泣きむしは、相変わらずか?ヒロシ」
パパは微笑みながらまた、頭を撫でてくれた。
そう、私は一人っ子だったせいもあるのだろう、人一倍の泣き虫で近所でも学校でも有名だった。
そんな私だったが、両親は「泣いてはいけない!」と私を叱った事は無かった。