マネジ!
■最強武器(女編)
「にきびがーできたのよー」
「え、どこに」
「顎」
「(全然わかんない……)不規則な生活してる証拠だぞ」
「全然わかんない?マネジ騙せるなら大丈夫だな。さすが私!」
自画自賛はいつものことである。にしても、会社の女らを見ると、その化粧のちからに驚く。信号待ちとかしてると、歩道の人が「こんな美人を乗せてどこへ行くんだ」と言う目で俺を見て行く。その人たちに、化粧オフした彼女らを見せたい。ビフォーアフターとかパネルにして。もしくは、すっぴん宴会の様子をお見せしたい。酒も手伝って、かなりえげつないぞ。えげつない。
「ちょっとォ、前見てよね。いくら私が超絶美人だからって」
ほんと、えげつないよ……。
■本日、営業終了
社員その①は手癖が悪い。どういうことかと言うと、営業所の備品を盗むのだそうだ。
「備品っても、コーヒーミルクとかさ、そういうんじゃなくて、クレンジングとか、売りもんのハンドクリームとかよ!」
営業所では、社長が厳選に厳選を重ねた良質化粧品の数々が売られている。そしてそれは、ばか高い。少なくとも、おれを含む世の男どもには理解できない。
「社長は何も言わないのか?」
女傑と呼ばれる敏腕社長である。社長が気付かない筈がない。
「うちで売ってるハンドクリームを使ってたのよ。その事を社長に言ったら、あいつには一度も売ってないって言うの。それで、発覚したわけ」
なんだか話が噛み合ってないような気もするが、まぁそこはいつものことである。残念ながら。
ともかく、これに関しては、社員その②を始め、社長も頭を抱えている様子である。あの社長なら、一発ガンたれでもしたら社員その①なんか観念するんじゃないのかなぁ。
「バカだバカだとは思ってたけど、ここまでとはねー」
一息置いて、社員その②は幻滅よ、幻滅。と呟いた。おれは密かに、まぼろしを見るほど期待もしていなかったくせに、と思った。社員その②はわりかしドライである。
「ま、確かにバカなら仕方ないんじゃないか。こっちの負担は増えるけども、しっかりした人が監視する以外には」
「よねー。ちょっと注意したくらいで直るならとっくだし」
深いため息を吐く社員その②。今日の彼女の横顔は、いつもより疲れたように見える。
「あ、そこのティッシュの下にチョコあるぞ」
「なに?あ、これ。なんで箱の下に……隠し財産かって」
「日中、直射日光でとけないようにだよ!食べていいよ」
「え、なんで」
「頑張ってるみたいだから、ご褒美」
「マネージャー……」
少女マンガなら、おれの背景には絶対きらきらしたのが描いてあったと思う。そして、社員その②の目には、かっこいいおれが映っていたはずだ。
「私、甘いものあんま好きくない」
「テメー!」
ああ、今日も夜は更けてゆく……。
この世の中には理不尽なことがたくさんあって、だいたいの理不尽なことは我慢しなきゃならない。どうしようもない先輩の尻拭いをしたり、出来の悪い後輩の面倒を見なきゃいけなかったり、休日出勤を強制されたり、それだけ頑張ってるのに評価されなかったり。だけど、仕方ないっちゃ仕方ない。それが社会ってもんだ。そんな社会がしんどいってのは大いにわかる。だからおれくらいは、社員その②の愚痴を聞いてやって、褒めるべきときはしっかり褒めてやりたいと思うのだ。
■社長、女傑エピソード
「こないだ社長が、六万二千円のピンクダイヤのネックレス、あ、チェーンがプラチナの。をさー、二万で買ったって言ってた」
「……よく知らんけど、宝石とかって値切れるものなの?」
「いや、たぶん『二万って言ってた!そう聞いたから買いに来たのに!』とかって押し通したんだと思う」
「スゲー……」