小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

マネジ!

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 
首都圏を中心に、五件のエステサロンを経営する会社。それが、おれの就職先だ。
おれはエステには何の造詣もないし、はっきり言って興味もない。それが何故、エステサロンに勤めるかというと、就職氷河期真っ最中の今年、新卒のおれは所謂「内定取り消し」に合い、打ちひしがれていたところ、母親が懇意にしていたこのエステサロンの女社長に拾われたのである。そんな訳で、おれはこの女傑と渾名される敏腕女社長に頭が上がらない。
で、おれの仕事は、社員何人かのシフト調整と、あちこちの営業所に行かされる社員何人かの送り迎えだ。運転免許くらいは、と大学二年の春休みに取っておいて心底良かったと思った。そして、どうせなら、とマニュアル免許にしておいて、良かった。会社の車はいまどきマニュアル車なのだ。
そんでもって、もう一つ仕事がある。一番大事な仕事だと、おれは勝手に思っている。それは、社員の愚痴を聞いてやることだ。




■開店準備に入ります

今日もおれは社員その②(二番目に若いのだ)を営業所まで車で送る。その間、社員その②の口は閉じることがない。社員その②は、スッとした細身の美人だが、見た目以上に口が減らない。というか、悩みが尽きない?
「ちょっと聞いてよーマネージャー」
「あー?」
「真面目に聞けよクソ野郎」
「はい」
そっちこそ、真面目に話す態度じゃないだろ。ほら、ダッシュボードを漁るな。漁るな!
「社員その③が下っ端の教育をしない。ってか、出来ない」
下っ端、という表現はいかがなものかと思う。まぁ、新入社員のことだ。今年も数人のエステティシャンが入社したはずだが、おれに任されたのは社員その①だけなので、他の新人のことはよく知らない。この社員その①もくせものなのだが、それは追々。
「出来ないとは?」
「可愛くない子の面倒みない」
「なんだそれ」
「だからまぁ、私は目をかけてもらったから、嫌いじゃあないんだけどねー」
社員その②はこういうところが玉に瑕だと思う。

どこにも、後輩の面倒を見ない先輩はいる。ここで、一番困るのはその後輩自身……かと思いきや、別の先輩にしわ寄せが来る。それが世の中である。たとえ一人が面倒を見なくても、他の人まで同調するわけにはいかないのだ。ほっといても新人が仕事を覚えてくれるというなら、話は別だが。うちのエステサロンはシフト制で、新人のうちは働く営業所がその日によって違う。そうして、いろんな先輩の技を教えてもらう。ので、他の営業所で教育をサボられると、違う営業所では大迷惑である。みんな等しく、教えているというのに。
「まともに仕事しないのが先輩だろうが後輩だろうが、フォローしなきゃいけないのは変わらないさ」
「そりゃそうだけど」
「出来る人の義務なんだよ。それも仕事のうちというか」
「うーん、納得いかんなァ……」
社員その②はしかめっ面のまま、サンバイザーを下げた。サロンの営業時間は十二時から二十四時まで。開店準備を考えて車を走らせていると、そろそろ陽が高くなり、眩しくなってくるという時間帯だ。
「世の中そんなもんさ」
だから頑張るしかないんだよ。期待してるぜ、社員その②。


■以後気を付けるように

彼女らの仕事は、まず最初に、自分を着飾り美しく見せることである。
社員その②の寝坊癖は、社会人二年目に突入した今年も治りそうにない。だからこそ、おれが迎えに行くように仰せつかっているのかもしれない。逆に、それが彼女を油断させ、寝坊させる原因になっているのかも知れない。
「ちょっとォ!これ以上だと遅刻だよ!」
社員その②の住むアパートの駐車場にとめた社用車の中。おれは朝から大声を出しまくる。おかげでのど飴がダッシュボード常駐となってしまった。お気に入りはキシリクリスタル。
電話口からは、寝起きで口が回らないのだろう社員その②の、腹立たしい言い訳の数々が垂れ流されている。こっちの話、聞く耳持たねぇ。
「いやー、ちょっと世界救ってたら遅くなったわ、夢の中で」
「よし、助手席だけ上手く電柱にぶつけてやる」
「やめなよーこれ会社の車でしょー」
軽口を叩きつつ、社員その②は女子高生が愛用するようなばかデカい鏡でもって、自分の姿を確認する。どれだけの時間をかけてるのかはおれにはわからないが、彼女の化粧は今日も完璧である。商売柄、当たり前なんだけど。
「よしっ!今日も私すてき!」
「……」
横目で社員その②を見る。確かに、今日も彼女は見目麗しい。
化粧も完璧だし、シックな細身のパンツは彼女の長い足をより一層長く見せている。いま着ているコートとの相性もいい。
コートの下も、センスのいい着こなしを……
「ってえ!コートの下パジャマだろそれ!!」
「はっ、何でこれがパジャマだって……盗撮されてる?!」
「近所の衣料品店で見たことあるんだよそれ!!」
スウェット上下 一千二百八十円也。ちーん。
「うるさい!ちゃんと服持ってきたわよ!営業所着いたらすぐ制服に着替えるんだから、朝くらいいいじゃない!」
恥ずかしさ(彼氏でもない男に、寝てるときに着るものを見られるのは、普通の女なら恥ずかしいと思う。たぶん)で、その色の白い顔を赤くさせ、社員その②が喚く。
「い、く、ねーよ!」
作品名:マネジ! 作家名:塩出 快