「秋の恋」
そう言えば、「ばかやろー!」と叫んでたな。
失恋して食欲なしってところか?
「食欲不振はこれか?」と親指を立てて見せた。
夏美は認めるのが嫌な素振りで、目だけで頷いた。
「ま、それじゃしょうが無いか。鳶にも馬鹿にされる訳だ」
コーヒーを飲みながら夏美を見ると、なんだか目の奥に炎が見えるようだ。
「俺の事怒ってるのか?」と聞いてみた。
「ううん、もう怒ってない。命の恩人だと思ってる」
「まぁ、それはちょっと大げさだけど、でも一つ間違えばけがをする事もある。避けた拍子に水族館裏の石段に頭をぶつけるとか」
夏美は思い出していた。
最初は水族館から降りてきた石段に座ろうと思った事を。
あそこに座って、走ってきた彼が押し倒していたら後頭部にたんこぶか怪我していたかも。
砂浜だったから、髪が砂で被害を受けただけで終わったのだ。
そう思うと、ちょっと身震いしてしまった。
「なんだ、今頃思い出して怖くなったか?」
「まぁ、ちょっとだけね」腕をさすりながら答えた。
肌もまだ少しザラザラしている。