「秋の恋」
夏美は友也の手を払うように頭を振り、自分の手櫛で髪を直した。
「海の家だってもう店じまいしているんだぞ。近くにあるものを言えば、ラブホテルだ。それでもいいなら行ってシャワーを浴びるか?」
海岸のそばに新江ノ島水族館がある。
そしてその前の通りには、何軒かのラブホテルが並んでいる。
「なに?それって誘っているわけ?そこら辺のラブホも体験済み?お勧めでもあるの?」
攻撃的な夏美の声を遮るように、友也は怒鳴った。
「見ず知らずの女なんて誘わないよ。髪の事をしつこく言うから言ってみただけだ。文句はあるか?」
「いや・・・・・・無いけど」
「じゃ、飯食いに行くぞ。あ、その前に着替えるからちょっと待ってろ」
近くの駐車場に止めてある車のそばで、友也は平然と着替えた。
「女性がそばにいるんだから、少しは気を遣ってよね」
声に出したつもりは無いが、どうやら漏れていたようだ。
「あぁ?何か言ったか?いつもここで着替えているんだからいいんだよ」
Tシャツと少し色の抜けたジーンズに着替えた友也は、砂浜から水族館横を通り車道へと、どんどん歩いて行く。
自分のペースで歩く友也の後ろを夏美が小走りについていった。