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朝霧 玖美
朝霧 玖美
novelistID. 29631
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「秋の恋」

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「あ、あのホテル代……」
「要らないよ。何もしなくても払うのが男ってもんだ」
「そう言うものなの?あいつは割り勘だっていつも言ってたよ」
「あいつ?あぁ、彼氏か」
「うん、元彼」
いつの間にか、あいつは「元」彼になっていた。
「そういうみみっちい奴から離れられたと思って喜べばいいじゃん。男なら食事は割り勘でもホテル代くらい払えないとなぁ。ちょっとかっこ悪くないか?」
確かにそう言う考えもあるんだなと夏美は聞いていた。
「ほら、行くぞ」

いつの間にか海に太陽は落ちかけて、そこいら中が日暮れ色になりかかっていた。
海の向こうにある富士山もシルエットになり始めている。
秋の日暮れは早い。江ノ島の灯台にも灯がともっている。
思いがけず、しっかり寝てしまったようだ。

歩道に出て向き合った時、また頭をゴツンとされた。
「いいか?ここに来たら食べ物は出さない事。食べるなら俺がランチに連れて行くから。わかったか?」
「え、わかんないよ?」
怪訝な顔をして友也の顔を見上げた。言っている意味がわからない。
「だから、今度ここに来た時の話だよ」
「今度?」
「物わかりの悪い女だなぁ。・・・・・・だからまた来いよって言ってるんだ」
友也の顔が夕焼けのせいか自分の言葉のせいかわからないが、ほんのり色づいていた。
「あ・・・・・・、うん」
そう答えてる夏美の顔も夕焼け色だった。
「じゃ、これ俺の携帯のメルアドと番号。何かあったら連絡しろ。何も無くてもいいからメールしろ」
ホテルの中にあったアンケート用紙みたいなものの裏に殴り書きしてあった。
「私の・・・・・」
「それは返事が来ればわかるからいい。でもいやだったらしなくてもいいから」
「はい」
なんだか照れてしまって、小さな声の返事になってしまった。
「ま、出会いは一期一会って言うしな。なにしろ命の恩人だし」
「いつまでそれを言ってんの?しつこいよ」
笑いながら友也のお腹を拳でつついた。


作品名:「秋の恋」 作家名:朝霧 玖美