「秋の恋」
「ま、そういうことだ。送ろうか?」
「大丈夫、一人で帰れる。ありがとう」
そうは言いながら、小田急片瀬江ノ島駅まで送ってくれた。
歩いてほんの少しの道のりだが。
改札を抜ける時、友也が言った一言がさらに心を揺すぶった。
「まったく目の離せない奴と出会ったもんだ。まぁ、それも面白いか。夜眠れない時は、この命の恩人に電話しろ。一人じゃ無いんだからな」
改札口に背を向けたまま頷いた。
だって顔を見せたら、流れている涙も見せるようなってしまうから。
心の中に灯台のように小さな光がぽっとついたような気がした。
夏の恋を捨てに来た海で、秋の恋を拾った。
了