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てっしゅう
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「忘れられない」 第五章 仁美の秘密

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「話しが終わってないからここで戴こうかしら・・・なんでも構わないのよ、何か買って来ようか?」
「大丈夫よ、チンするものだけど、美味しいのが買ってあるの。作るわ、少し待ってて・・・」

有紀の携帯が鳴った。
「安田さん、はい・・・そうですか。構いませんよ、教えてあげてください。ありがとうございます。楽しみに待っていますから・・・ええ、そう・・・解りました。明日ですね・・・今ですか、ええ、仁美さんの所に来ています。話していませんよ、はい・・・では、また」
「なんて言ってきたの?連絡がついたって話なの?」仁美は自分から有紀へ話題が移るように・・・と、聞いてみた。

「そうなの、明日の朝に電話を掛けてくれるそうで、番号を教えてあげて下さいって頼みました。まだ仕事中で終われないから、明日にするという事らしいの。よかったわ、なんだかこうなってみれば簡単なことだったみたいに感じる。おかしなものね」
「へえ、そうなんだ。簡単なものにね・・・案外そうなのかも知れないね。ねえねえ、なんて言うの?掛って来て最初に?」
「えっ?・・・解らないわ。そんなこと」
「お元気にしていました?って言う感じかしら」
「そんなところかしら」
「次は?今でも好きです・・・かな?それとも、お逢いしたいです・・・かな?」
「仁美さん、もうどうでもいいじゃないの。それよりあなたのことまだ終わってないから聞かせて」
「だから言ったじゃない。安田に会ってから考えるって」
「安田さんが謝ったら許してあげるのよね?なら復縁するという事なんだよね、何度も聞くけど」
「解らない・・・許すかも知れないけど、復縁はすぐには無理」

仁美は気持ちは許せても一緒に暮らすことをためらっているように見えた。有紀にはそこが引っかかるので、納得が行かないのである。

「ねえ、仁美さん。私は何かしっくり来ないのよ。あなたの気持ちがね。だってね、許せるということは夫婦なんだから縁りを戻すって言うことでしょ?違う?」
「普通はそうよね。許してあげるから別れて、というのは無いよね。じゃあ今までどおりに一緒に暮らそう、って言うのが筋よね・・・」
「だったら、安田さんと会ってあなたが許せたら一緒にまた暮らすって言うことになるのね?」
「今はそれは無いって感じるの・・・裕美のことで許せないからじゃないの。安田と一緒に暮らすって言うことは男と女に戻るって言うことなんだよね。それが難しいって思うから、一緒には暮らせない、そう言ってるのよ」
「すぐにじゃ無く安田さんとは時間を掛けて受け入れるようにすればそれで構わないんじゃないの?とにかく一緒に暮らし始めないと二人は元のように戻れないわよ。安田さんのところへ来ればいいじゃないの。私も傍に居るから楽しくやってゆけるわよ」
「あなたは、明雄さんと結婚したらどうなるか解らないでしょう?今のところを出て行くようになるかも知れないし」
「それはそうだけど・・・ねえ?何か隠してない?」
「何を?・・・」
「安田さんは昔はどうだったのか知らないけど、今はとっても紳士だし、やさしくて素敵に見えるの。あなたが戻れたら、きっと彼は大喜びだし、あなたも以前とは違って仲良く出来ると思うの。そう感じなきゃ、あなたに勧めないわよ・・・」
「有紀さん・・・あなたがそう言ってくれるのは嬉しいけど、安田の本心が私には解るの・・・いいえ、きっと心から許せ無いのは、私じゃなく安田だと思うから」
「どう言う事なの?あなたに何か非があったの?」
「あの人が出て行ってから、裕美を通じていろいろ言ってきたけど、私は無視したし、許せなかった。戻ってきてもまた同じことの繰り返しになるって思ったからね」
「それは安田さんも許す気持ちになっていると思うわ。自分がいけなかったって私に言ってくれたし、本心だと思うわ」

仁美はなかなか本当のことを言い出せなかった。有紀がここまで聞いてくるのはひょっとして知っているのではないだろうかとも勘ぐっていた。

仁美は安田が家を出て行ったあとしばらくは生活のために何かと忙しくなっていた。裕美が寂しがらないように心の絆も深めようとしたし、自分のことを考える時間は持てなかった。少し経ったころ、会社の慰安会で知り合った一人の男性と親しくするようになった。気持ちが不安定だったのだろうか、刺激が欲しかったのだろうか、それほどいけないという気持ちがなく何度か二人で逢うようになっていた。この時期に安田は偶然目撃したのだ。安田を嫌う理由になっていたわけではない。夫にはなかった優しさに惑わされていただけなのだ。

それは半年余りで終わった。優しかった相手の男性も結局は仁美以外に女性を作り浮気していたのだ。見かけ優しい男はもてる。それは続けて浮気をする、いや浮気し続けるという証明でもある。ある意味堅物な夫はつまらなくとも嫉妬をするような事はない。そんな夫に浮気をした、と感じるようになったのも、自分の心が汚されてしまっていたからであろう。仁美は夫に出てゆかれ、浮気した男性に捨てられダブルで男性不信に陥っていたのだ。

「有紀さん、安田から私の事聞いてないの?」突然仁美はそう切り出した。
「・・・何の事?」
「いいのよ、内緒にしなくて・・・さっきからあなたの話しぶり聞いていて何となく感じたのよ。話していない理由を知っているんだって」
「仁美さん・・・ごめんなさいね。言わないで欲しいって聞いていたから」
「やっぱり・・・あの人知っていたのね・・・」
「許してくれているわよ、自分が悪かったってそう話してくれたから」
「昔のことだからね・・・あの人だって出て行ってから何をしていたのか知らないし・・・今さらそのことを蒸し返しても始まらない気がするよね」
「そうよ、昔は昔。これからどうするかよ。裕美さんが心の支えだったのは良く解るよ。だからこそお父さんである安田さんとこれから仲良く生きてゆくことが供養にもなると思うの。独身の私がえらそうなことを言うけど、そう思えない?」

仁美は有紀の言ったことが響いた。裕美の供養になる、それは裕美自身が望んでいたことだからだ。
「有紀さん・・・あなたのお陰ね。私は大切なものを見失うところだった・・・目の前に来ている幸せを逃がしてはならないのね・・・」

「ねえ、明日明雄さんから電話が来る予定なの。あなたも安田さんのところに行って、話をしない?なんなら私が一緒に居てあげてもいいのよ」
「ありがとう有紀さん、でもあなたは明雄さんのことだけを今は考えるべきよ。私たちの事は後で構わないから」
「ううん、私が明雄さんと連絡できることは安田さんやあなたが岡崎に一緒に来てくれたお陰なのよ。自分だけ幸せになろうなんて・・・あなたと一緒じゃなきゃ、意味がないのよ」
「有紀さん・・・あなたって人は・・・私は自分が恥ずかしいわ。今でも人の思いが感じられなかったりするから・・・卑しい心の持ち主なのよね・・・あなた純粋で尚且つ強いのよね。羨ましがっても仕方ないけど、これからもずっとお友達で居て構わないの?」
「当たり前よ!何言ってるの。さあ、電話しなさいよ、明日会いに行きたいって・・・土曜日でしょ、きっと休みだろうから」
「負けたわ・・・言うとおりにする」