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てっしゅう
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「忘れられない」 第五章 仁美の秘密

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仁美は安田に電話をした。二言三言話して終わった。

「明日は休みじゃないって・・・早く帰ってくるから夕方に来て欲しいらしい。そうするって返事したよ」
「やったじゃない!よかった・・・よかった・・・」後は言葉にならない。二人とも泣いていた。

後は有紀が明雄からの電話で30年ぶりに逢えるかどうかだけだ。週末の電車は混んでいた。寝屋川市までずっと立っていた。周りにいる何組かのカップルもいろんな事があって今仲良く出来ているのだろう。自分と同じかそれより上の年齢の女性が一人で乗っているのが目立つ。共稼ぎなのか、自分と同じような一人暮らしなのか、さてまた、夫とは別行動をしているのだろうか、そんな事を考えていた。

駅前のスーパーで少し買い物を済ませて、自宅へ帰った。エントランスから男性二人が歩いて中へ入ってゆくのが見えた。一人は確実ではないが安田であろう。隣の人は誰なんだろう・・・
買ったものを入れたレジ袋を床に落とした。
パタン!と音が響く。慌てて有紀はそれを拾った。少し見えた横顔は間違いなく・・・明雄であった。

「何故・・・ここに明雄さんがいるの。安田さんが内緒で呼んでくれたのかしら」
有紀は心臓が張り裂けそうに脈打っていた。少し間をおいてエレベーターに乗り自宅に入った。

頭の中はもう真っ白・・・何も考えられないほど動揺し、鼓動が激しくなってゆく。渇いた喉を水で湿らせて、ソファーに座ってしばらくはボーっとしていた。

リリリリリ・・・
自宅の電話が鳴る
「きっと安田さんだ・・・」
受話器を取る。
「はい、埜畑です」
相手が話す。
「ご無沙汰をしておりました・・・石原です」
しばらく声が出なかった。

「どうしました?石原ですが、有紀さんですよね?」
喉をごくりと鳴らして深呼吸をしてから返事をした。

「はい、有紀です・・・明雄さんですね。安田さんから聞いていました。お久しぶりです」
「本当にごめんなさい・・・許してはくれないだろうけど、声が聞けてよかった。今安田さんのところにいるんです。時間が許すなら逢いたいけど・・・どうですか?」
「はい、逢いたいです。どうしましょうか・・・」
「安田さんがそちらへ伺ったらどうだ、と言われています。ご迷惑じゃなかったらお邪魔したいのですが・・・」
「構いませんよ、玄関で立っていますから来て下さい」

有紀は入り口のドアーを開けて立って待っていた。ゆっくりと明雄は歩いてきた。白髪交じりの明雄はあの写真の風貌とは少し変っていたが、有紀の知っている姿だった。

「有紀さん、逢いたかった・・・」
「明雄さん、私もよ。さあ、中へ入って・・・」
有紀はそっと手を繋いで引き寄せた。30年間の空白がはじけるように消えて、昔の想いが甦ってきた。