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てっしゅう
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「神のいたずら」 第十一章 運命の前夜

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「碧、雨が来る気がする。降って来たら走れないから早く帰るようにちょっと飛ばすぞ。しっかりつかまってろよ」
「慌てなくて良いよ。事故起こすといけないから。もし降って来たら・・・どこかに入りましょう。私は良いから・・・」
「何言ってるんだ!中学生で・・・それに金もないし」
「私が持っているから気にしなくて構わないよ。べたべたに濡れるほうが嫌だもの」
「そりゃそうだが・・・」

話している途中からポツリポツリと空から降ってきた。隼人は迷ったが自分の家で服を乾かせば良いと思い、雨の中を突っ走ることにした。
「碧、俺の家まで来い。乾燥機あるから濡れた服乾かせて帰ればいいから。ちょっとべたべたは我慢してくれ」
「うん、解った、我慢できるよ」

隼人はスリップ事故を起こさないように慎重に運転した。碧が乗っていることを一番に気遣っていた。程なく隼人の自宅に着いた。足早に玄関に駆け込み、メットを脱いでお互いのずぶぬれ姿に笑いあった。
「済まんなあ、服台無しにしちゃったね。風呂場に乾燥機があるから乾かせよ。それまで俺のTシャツ貸してやるから羽織ってろ」
「ありがとう・・・ねえ少しシャワー浴びさせて」
「ああ、構わないよ。待ってろ、バスタオル出すから」
「お家の人は誰もいないの?」
「母さんは毎日8時ぐらいなんだよ、帰ってくるのが。妹はどこ行ったんだろう・・・友達のところかな。よくわかんないな」
「お兄ちゃんとして気にならないの?」
「そんなことはないけど、近所に仲のいい友達がいてよく遊んでくるから、多分そうしてるよ」
「いくつなの?妹さん」
「小学校6年だよ。まだガキさ・・・小さいし、ブラだって着けてないし」
「そんな事言って・・・かわいそうに。優しくしてあげないといけない子になっちゃうわよ」

碧にそう言われて、なんだか急に心配になってきた。
「遠慮せずにシャワー浴びて、このTシャツ着て寛いでてよ。脱いだ服は乾燥機に入れてスイッチ押してくれ。俺さ、傘持って迎えに行ってくるわ」

本当は優しい兄なんだと碧は安心した。
少し冷えた身体を熱いシャワーで温めて、隼人のTシャツを素肌の上に羽織った。

シャワーから出た碧はTシャツ姿で居間のソファーに正座すわりをして隼人を待っていた。玄関の開く音がして、女の子の声が聞こえる。妹と一緒に帰ってきたのだと思った。

「迎えに行ってよかったよ。こいつ傘持って行ってなかったから・・・そうだ、紹介するよ。妹の、麻美だ」
ちょこんと頭を下げて、碧に挨拶をした。
「麻美です。初めまして。お兄ちゃんから聞いています。碧さんですよね?」
「ええ、そうよ。麻美ちゃんって言うのね。よろしくね。とっても可愛いね。お兄ちゃん自慢じゃないの?」
「おいおい、おだてるなよ。付け上がるから」
「碧さん、お兄ちゃんには勿体ないぐらい綺麗な人ですね。横に座っても良いですか?」
「ええ、どうぞ・・・お話しましょうね」
「お洋服濡れちゃったの?お兄ちゃんのシャツなんか着て」
「そうなのよ。びしょ濡れになったから、乾かしてもらっているのよ」
「乾いたら着てすぐに帰るの?」
「そのつもりだけど・・・」
「お母さん帰ってくるまでお話したいなあ・・・麻美お姉ちゃんみたいな人と話したことがないから、いっぱい聞きたいことあるの」
「そうね、どうしようかな・・・」
「碧、良かったらこいつの話し相手になってやってくれよ。俺、お前の家まで送るから暗くなっても心配ないよ」
「ありがとう・・・ママに遅くなるって電話しておくね。待ってて」

由紀恵は雨が降り出したので心配していた。小止みになるか様子を見て止んだら帰りたいと碧からの電話に、「駅まで迎えに行くから着いたら電話するように」と返答された。

「麻美ちゃん、じゃあもう少し居るから、聞きたいことがあったら話して」
「嬉しい・・・ねえ、麻美の部屋に行こう!お兄ちゃんに聞かれたくないから」
「いいわよ。隼人さんゴメンね、そう言う訳だから」
「仕方ないなあ・・・おい麻美、早くお兄ちゃんに返してくれよ」
「ダメ!やらしいこと考えているから・・・お姉ちゃん、気をつけないと危ないよ」
「あら、そうね。気をつけるわ・・・そういう人なのねお兄ちゃんって」
「麻美!何言ってるんだ。冗談だって言え!」
「べ〜だ」

碧はこのやり取りがおかしくて笑いが止まらなかった。仲の良い兄弟なんだと、想像できた。
「麻美ちゃんは、お兄ちゃんが好きなんだね」
「うん、いつも優しいから・・・怖いことしていたときも私には優しかったよ。だから・・・大好き!」

「碧ね、お兄ちゃんが怖かった時にひどい目に合わされたのよ」
「ほんと!叩かれたの?」
「ちょっと違うけど、似たようなものね」
「悪い友達と遊んでいたから・・・麻美もお友達から遠ざけられて淋しかった」
「そうだったの。今は優しいお兄ちゃんだから良かったね」
「うん、お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好きなの?」
「あら、気付いていたの?そうよ、とっても」
「麻美はお兄ちゃんが怖いって、男の子が近寄らないの・・・」
「そうか、そう言われているのね。でもだんだん解かってくるから、中学に行く頃にはお友達が出来るよ、きっと」
「そう?絶対?」
「麻美ちゃんは可愛いから絶対よ」
「お姉ちゃんは初めて彼が出来たのはいつだったの?」
「中学一年のときよ。クラスメート」
「ふ〜ん、キスした?」
「おませなのね、そんな事聞くなんて・・・したわよ、ちょっとだけね」
「ほんと!ねえねえどんな感じだった?教えて」
「覚えてないなあ・・・本当に瞬間だったから」
「じゃあ、その後の彼とはどう?」
「麻美ちゃんはキスがしたいの?男の子の事興味あるの?」
「お兄ちゃんに・・・してって言ったら、怒られた」
「そんな事言ったの!兄弟でしょ?」
「本当の兄弟じゃないの・・・私は今のパパの子供、お兄ちゃんはお母さんが連れてきた子供なの」

隼人の両親はそれぞれ子連れで再婚した。幼かった麻美は本当の兄と思って育ってきた。真実を知ったからといって兄弟の気持ちが変る事はなかったが、大人になり始めた麻美の心にわずかな変化が現われていたのだ。好きになってはいけない兄の存在でもあった。

「お姉ちゃんはね、事故で死にそうになって意識が戻ったら昔の記憶が全部なくなっていたの。悲しかったわ・・・でも、新しく生まれ変わるつもりで頑張ってきたの。麻美ちゃんも、お兄ちゃんを本当のお兄ちゃんと思って甘えたり、頼ったりして助け合わないといけないよ。だってね、この世に二人だけなんだから・・・生まれなんて関係ないよ」

碧の話に麻美は泣き出した。身体をぎゅっと抱きしめて、「大丈夫だから・・・お姉ちゃんもついているから」そう慰めた。

辛い気持ちを隠すように隼人も突っ張ってきたのだと知らされた。麻美もまた大きくなるに連れて同じような思いに悩まされるのかと思ったら、何かしてやりたいと思った。泣き止んで、麻美は碧の胸に手を触れた。

「麻美もこんなに大きくなるの?」
「そうよ、お姉ちゃんだって麻美ちゃんぐらいの時はよくぺちゃパイって言われてたのよ」
「ほんと!こんなに大きいのに?」