小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「哀の川」 第五章 別居

INDEX|6ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

翌朝、日が高くなるまでホテルで過ごし、好子は会社を休んだ。直樹は好子と昼ご飯を済ませ、別れた。もう二度と会う事はないだろう。誘うことも、誘われることも無いだろう。そう話してさようなら、したからだ。


山手線の電車から直樹のいた会社が目白付近でチラッと見える。思いは自分のこれからに寄せてはいたが、なんだかもうあそこには戻れないんだと思うと、ちょっと寂しさを感じた。自宅に戻って、自分が書いた提案書を再度確認していた。細かい部分を修正して、もう一度清書しなおし、自分のかばんに入れた。さて、これからどうしてこの計画を実現させるのか悩んでいた。

夕方になり、外で夕食を済ませて家に帰ると、アパートの前に見慣れた車が停まっていた。赤いゴルフだ。足早に近づいて行くとドアーが開いて、麻子が降りて来た。

「直樹!待ってたの。ご飯食べてたの?」
直樹は躊躇した。好子の匂いを感じられるんじゃないかと・・・大きく深呼吸をして返事を返した。
「うん、めずらしいねここに連絡もなく来るなんて」
「近くで友達と会っていたから、ちょっと寄り道したの。どうしょう?お部屋に入ってもいい?」
「構わないけど・・・ご飯済ませたの?」
「大丈夫よ、軽く食べたから」
麻子は直樹の手を取りながら階段を上がり部屋に入っていった。

直樹は重苦しい気分だった。悟られるんじゃないかと気に病んでいたからだ。麻子はすかさずその表情を捉えた。
「元気ないんじゃないの?何かあったの?」
「うん・・言ってなかったけど、会社辞めたんだ。自分の意見が通らなくて。これからどうしようかなって考えているから・・・」
「そうなの!ビックリしたわ。ねえねえ、自分で独立したいって言ってたわよね?丁度いい機会じゃない、応援するからやりなさいよ」

麻子は直樹が独立する支援を申し出た。直樹も正直お金はなかったから、ありがたい話ではあったが、今は素直にありがとうと受ける気分になれなかった。返事を濁していると、抱きついてきて、
「直樹!変よやっぱり。怒らないから正直に話して!どうしたの?」
「・・・何もないよ。本当にどうしようかと悩んでいただけだよ」
「まあいいわ、じゃあ、私を抱いて!ね?いいでしょ?」

もう応じるしかない。今朝も好子の中で出してしまっていた直樹だった。

麻子はこのごろ激しかった。もう夫からの束縛が解けて気持ちが集中できるのだ。直樹はイヤじゃなかったが、自分のペースにならないことを苦痛に感じることがあった。昨日と今朝の好子はおとなしくてしかも感じていたから直樹に強く求めることは無かった。それは、直樹にとって心地よい感触に思えていたから、今麻子が求めてくる加減ははっきりと言って嫌な気持ちに感じていたのであった。

「麻子、少し話さないか。僕には大切な決断をしないといけない時だから聞いて欲しいんだよ」
「終わってからにしようよ・・・だって、もうこんなに・・・」
「分かるけど、気分が集中できないから、先に話を聞いて欲しい」
「直樹、あなたやっぱりおかしいよ。今までこんなことしなかったから・・・」
「今日は特別なんだよ。さっきまで提案書の清書していて、やっとご飯食べたんだよ。まだ考えなきゃいけないことあるし、麻子が応援してくれるって話も途中だし」
「・・・今日は、帰る。日曜日に練習の後にゆっくりとお話しましょう」
「えっ?怒っているの?何で?」
「怒ってなんかいないわよ。ゆっくり考える時間が欲しいんでしょ?お邪魔のようだから帰るだけ。気にしないでいいよ」
「待ってよ!それって怒っているってことじゃない!麻子、頼むよ、少し話し聞いてよ・・・」

麻子は何かにピンと来たのだろう。その場に自分が居たくない感情に襲われていた。逃げ出すことで、時間を置けば元の気持ちで直樹と話し合えるだろうと思った。帰りの車の中で寂しさが募った。カーステレオから流れるユーミンの歌の歌詞にぴったりと当てはまっている事が一層気持ちを動かした。
直樹は深く反省していた。でもあのまま突入していたらきっと決定的な証拠を感じ取られてしまうだろう危惧もあったので、不本意だが仕方なかったと思うようにした。

好子は直樹と別れて、実家へと向かった。駅前の東武へ寄り道して買い物をした。近寄ってきて話しかける声が聞こえた。

「好子、何してるの?買い物?」振り返ると、そこに裕子がいた。
「裕子!あなたも買い物?」
「ううん、純一君の誕生日が近いから、プレゼント探してたの。好子、今日は仕事じゃないの?」
「うん、休んじゃった・・・」
「珍しいね、あなたがそんなことするなんて!どうしたの?」
「別に・・・気まぐれよ。このごろなんだか気持ちが不安定なの」
「ほんと・・・大変なのね、商売している人って・・・それともご主人と喧嘩でもしたの?あれ?当たりかな・・・」
「そこまで言うのね、相変わらずね、ハハハ・・・」
「元気ね、大丈夫よ。私の家に来ない?久しぶりに、話そうよ。母もきっとびっくりして喜んでくれるよ」
「そうね、本当に久しぶりね。ありがとう」

好子は誰でも構わないから、話をしたかった。頭の中を直樹のことがぐるぐる回っていたからだ。裕子は絶好の話し相手に思えた。昔のことから始まって話はとどまるところを知らずに夜まで続いた。裕子の母は久しぶりの好子を見て驚いていた。学生のころはよく遊びに来ていたから、しっかりと覚えていた。遅いから晩ご飯を食べてゆきなさい、と勧めてくれた。好子が迷っていると、そこへ麻子は帰ってきた。

「ただいま!・・・好子さん!びっくりしましたわ。いらっしゃい」
「麻子さん、お帰りなさい。お邪魔しています。裕子とばったり会って誘われついつい長居してしまったわ。帰りますから・・・」
「よろしければお話ししたいし、ご飯食べていって下さいよ」

麻子は素直に好子と話がしたかった。好子は麻子がここに居る事を知らなかったから、少し動揺した。みんなに勧められて食事を断ることは出来ないとあきらめた。夫に電話して、帰りが遅くなることを伝えた。

「ねえ、麻子さん、実家にはいつまでいるの?」
「ええ、実は別居していますの。夫は今香港ですが、行く前にはっきりと話し合いまして・・・」
「そうだったの。じゃあ、正式に斉藤君と結婚されるのね?」
「まだ、そこまでは。純一のこともありますから。好子さん、今日は素敵な衣装なんですね、私も同じようなワンピ持っていますから、驚いちゃった。とっても似合ってますよ」
「あら、うれしいわ。裕子は言わなかったけど、麻子さんはオシャレだから気付いてくれたのね」
「まあ、好子ったら、私が気付かなかったかのように言うのね」
「言ってくれなかったから仕方ないじゃない?」
「そうよ、お姉さん。言ってあげないと解らないものよ。でも、好子さんとっても女らしく見えて、素敵ですわ」
「麻子さんに言ってもらえると幸せだわ。ミスコンにでも出ようかしら、ハハハ・・・」
「冗談きついよ!好子。40だよ!」
「言わないでよ!そんなこと解ってるから、ね?麻子さん」
「そうよ、失礼よ、姉さん。いつも辛辣に言いすぎだわ。ねえ、好子さん?」