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てっしゅう
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「哀の川」 第五章 別居

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「そうよね、理屈はそうよ・・・でも、私はまだ女なの。家では、外では専務だけど一人の女なの。主人はそのことを理解しない・・・なんだか気持ちがめげて、寂しくなっていたの。直樹君が辞めるって目の前で言ったから、なんだかこのままじゃイヤ!って感じてしまったの」

少し好子は酔っていた。頬も赤く、首筋も赤く、目もうつろになりかけてきた。もう殆どワインボトルは空になっていた。

「好子さん、飲みすぎですよ。もうすぐ演奏が始まるみたいですから、飲むのは止めましょう・・・ね?」
「直樹君、優しいのね・・・麻子さんが惚れるわけだ・・・悔しい!」
「何が悔しいんですか?」
「いじわる!解りなさいよ・・・」

舞台にギターを持って演奏家が現われた。お辞儀をして椅子に座った。チューニングの音が響く。こつこつと靴音を響かせてダンサーが入ってきた。そして、ボーカルの男性と手拍子の男性、それに合いの手を入れる女性がスタンバイした。
ビビン、ビビン、ジャカジャカジャーン・・・ゆったりと始まる「アレグリアス」が始まった。キレのあるダンスとギターサウンドが、好子の乾いた心にしみわたる。直樹は初めて聞くが、その甘美な旋律に心を奪われた。後半の激しいリズムでは自然と身体が動き出していた。

「ねえ、直樹君、とっても素敵でしょう?」
「はい、初めてだけど、虜になりました」
二人はもうピッタリと身体を寄せていることに不自然さを感じなくなっていた。

演奏が終わり、拍手が沸いた。演奏がある夜は、ほぼ満席の状態だ。直樹たちのように、限られたボックス席のアベック達は身体を寄せ合っていた。舞台にスポット照明が当たっているほかは薄暗いムードのある空間になっていた。ふと隣の席を見ると、自分たちより年配のカップルがキスを始めた。直樹はちょっとドキドキした。再び演奏が始まる。今度は軽快な「ブレリアス」だ。ちょうどいい具合に手拍子と合いの手が入る。そして三曲目はゆったりとした哀愁を帯びた「ソレアレス」が始まった。ギターのトレモロは美しく響き、その物悲しいメロディーは遂に好子の涙を誘った。

「直樹君・・・好き」
「えっ?好子さん、なんて言いました?」
「二度言わせないで・・・今夜だけでいいの、絶対にしつこくしないから、ずっと私の傍にいて欲しいの・・・お願いだから」
「困りますよ・・・僕には・・・」と言いかけて、止めた。好子の泣いている顔をじっと見て、それ以上は言えなくなってしまったからだ。

女性の涙は何者をも動かす・・・直樹は強い自責の念に駆られたが、自分が青二才の頃から何かと世話をやいてくれていた専務の好子が、こうして甘えてきていることをむげには出来なかった。好子の肩に直樹は手を添えて「もう泣かないで下さい。言われるとおりにしますから」と答えた。

好子はきつく抱きついてきた。そして、演奏が終盤を迎えるように大きく奏でられた響きに染みこませるように、唇を重ねた。強く吸った。拍手がして演奏が終了し、また店内は明るくなった。唇を離し、好子はじっと直樹を見つめていた。

「直樹君、好きよ・・・若いけど最近のあなたはしっかりと考えが言えるし、態度も大人よ。私の中にあったあなたへの淡い気持ちが本物に変わっただけ、突然の思いつきじゃないのよ、それは解ってね」
「はい、ありがとうございます。しかし、ドキドキしてしまいます。ボクにはやっぱり・・・しんどいかな」
「大丈夫よ、私に任せて」

勘定を好子は払い、直樹の手を引いて店を出た。夜も11時を回ってひと気も少なくなっていた。少し歩くと綺麗なネオンが見えた。足取り重く直樹は好子に引かれるまま中へ入っていった。

「お湯を入れてくるから待っててね。コーヒーか何か飲む?」
「構わないで下さい。テレビでも見ていますから・・・」
「うん、じゃあ、歯磨きしてくる・・・」

足元が少しふらつく好子だったが、お湯を入れて、マットを敷いて、歯磨きしている所は手際よかった。つられて直樹も歯磨きした。大きな化粧台の鏡は二人の全身を映し出していた。

「こうしてみると、夫婦に見えるわね、結構若いでしょ?直樹君」
「好子さんは・・・裕子さんと同じだから・・・40ですよね?そうは絶対に見えないですよ」
「もう!40だなんて、言わないの!ショック受けちゃうじゃないの。麻子さんと見比べているでしょう?ねえ、どこが違う?」
「ええ、そんな事解りませんよ、いじわる言わないで下さい・・・」
「・・・言い過ぎたね、ゴメン。私はおばあちゃんよね。比べて勝てる所なんてないし・・・ちょっと惨めになった・・・」
「素敵ですよ、好子さんは、ほらこんなにおっぱいも大きいし・・・」

突然後から抱きついて、直樹は両手で胸を軽く掴んだ。身をちょっとくねらせて、イヤ、と声を出して直樹の手の上に自分の手を重ねた。

「直樹君・・・好きって言って、今だけでいいから・・・」
「好子さん・・・好きです。恥ずかしいけど自分が抑えられなくなってきました」
「ああ、私も好き、我慢しなくていいのよ・・・好きにして・・・」

洗面台から好子を抱きかかえるようにして、ベッドの方へと運んできた。自分から服を脱ぎ始めた好子は下着だけになると布団の中へ入った。直樹も下着一枚になってその横に身体を入れた。もう止まらなかった。強く抱き合い、生まれたままの姿になり、唇を重ね、好子の右手は直樹の硬直したものをしっかりと掴んでいた。

「好子さん・・・そんなに刺激しないで下さい。出ちゃいます・・・」
「じゃあ私にして・・・」

直樹は好子の体を丁寧に触って唇を這わせた。たくさん濡れている部分も口で刺激した。直樹の献身的な行為に、好子はもう陶酔していた。麻子とは違い、身体の反応はすこぶるよかった。感度がいいというのか、気持ちが高揚しやすいのか、もうイキそうな表情になっていた。

催促に応じて、直樹は身体をひとつに重ねた。麻子の中より柔らかい感じがした。しっかりとまとわりつく感触で、すぐに我慢できなくなってしまった。安全かどうかも聞かずに、間もなく中で果ててしまった。

「ごめんなさい、早く出ちゃった・・・気持ちよかったから我慢できなかった」
「謝らなくていいのよ、直樹君が気持ち良ければ。私もとっても良かったから、自信持ってよ」
「子供出来ちゃったらどうしよう・・・」
「大丈夫よ、心配しないで。さあ、身体綺麗にしなきゃ、お風呂入りましょ!」
「うん、一緒でもいいの?」
「それがいいね。少し恥ずかしいけど、もう遅いわよね、そんなこと言っても、全部見ちゃったし、ハハハ・・・」
「見ていないところがあるから、じっくり見せてもらおうかな?」
「イヤだ〜、いじわるねえ、暗くして見えないようにするから」

湯船に横たえている好子の体は均整の取れた中肉中背の女らしい姿だった。柔らかい肌は包容力を思わせ、直樹はいまさらに年上の魅力を感じていた。きっと自分は若い女性には興味を示さないようになってしまったかも知れないと、疑い始めた。