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てっしゅう
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「哀の川」 第五章 別居

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麻子の手元に手紙が届いた。差出人は夫であった。香港の消印で国際郵便だった。中を開けて読んだ。傍に裕子がいた。純一もいた。読み終えて手紙を二人の前に広げて麻子が話した。

「夫は、香港にしばらく滞在するそうよ。私には詳しい事情がわからないけど、日本にいると都合が悪いらしい。よかったら、遊びに来て欲しいって、書かれているわ」
「ママ!パパのいる所へ行こうよ!春休みに行きたいよ!」
「純一・・・そんなにパパに会いたいの?」
「だって、ボクのパパだよ!僕が会わないとパパがきっと寂しがるよ」
「・・・そうね、パパだものね。純一がそう考えているのなら、ママも都合をつけて春休みに行きましょう」
「ほんと!絶対だよ!約束だからね・・・」しっかりと純一は麻子と指切りをした。裕子はママと話があるから、先に寝なさいと、純一を部屋に行かせた。裕子は心配になってきた。麻子が純一との関係で悩むことになるのではないかと。

「麻子、大丈夫?香港へ行って・・・純一君が帰りたくないって言ったらどうするつもり?」
「それはないと思うわ、外国ですもの、姉さん」
「解らないわよ!パパが帰らないって言う限り、僕も居るって、いう可能性があるわよ」
「それなら・・・仕方ないわ。純一を置いては帰れないから、夫を説得して純一が帰るようにしてもらうから」
「それが、別居や離婚をしない条件だったら?」
「・・・卑怯よ・・・それは、そうなっても、妻としては何もしないから」
「あなたはいいわよ、純一君は間にはまって苦しむわよ」
「もう少し純一が大人になるまで、私も我慢するから。直樹にもきっと我慢できると信じているし・・・」
「男の人は、解らないよ。逢わずに何年も離れていられないから。あなたには成長してゆく純一君が居るからいいけど、直樹さんは、一人よ。仕事だけになってしまうと、結局は美津夫さんと同じになってしまうよ」

裕子は、妹の麻子が幸せになって欲しいと願っている。子供は大切だ、しかし全てを犠牲にしては自分の幸せが逃げてしまう。明日にでも、純一に言い聞かせようと密かに考えていた。

月曜日の夕方、学校から帰ってきた純一を裕子は誘って出かけた。時々麻子が居ない時に誘ってケーキを食べたりしていた。何の疑いもなく純一は喜んで着いて来た。

「ねえ、裕子ねえさん、ママが言ってたパパの所へ行くって、本当だよね?」純一は先に話しかけてきた。
「うん、ママのいう事はウソじゃないよ。ウソ言ったりしないから。純一君に少しお願いがあるの」
「なに?」
「ママがパパのお家からここに来た理由は知ってるわよね?」
「うん、パパがママと仲良くしないって聞いてるよ」
「そうね、パパはお仕事は出来るけど、ママの事は大切にしてくれなかったのよ。純一君は五年生だからそろそろ大人の事も理解しないとね。それでね、ママはパパと一緒に居たくないから昔住んでいた自分のお家に大好きな純一君と帰ってきたの・・・ね?ここまでは解る?」
「うん、ママはいつも一人ぼっちだったから・・・小さい頃はパパも一緒に遊びに行ったりしていたのに・・・」

少し、寂しそうな表情を純一は見せた。

「ママはね、パパがお仕事一生懸命していることが嫌じゃないのよ。でもね、お家にいる純一君と三人で遊んだり、旅行に行ったり、して欲しかったの。出来ないわけじゃやなかったのに、しなかったパパのことがだんだん嫌いになってきたのね。おじいちゃんやおばあちゃんもパパの見方だから、ママの事庇ってはくれなかったでしょ?」
「うん・・・おばあちゃんは、ママが我慢しなきゃいけないって言ってたよ。パパは忙しいんだから、って」
「そう、そうよね、おばあちゃんはパパのママだものね。純一君のお嫁さんが同じ事を言ったら、ママだって、我慢しなさいって、きっとお嫁さんに言うわよね、だって、純一君が可愛いんだもの」
「うん、そうかな・・・」

少し解らなさそうな表情をしていたが、裕子の目を見て、大きく首を振って頷いた。

裕子はここからがポイントだと話しをわかりやすいように純一に言って利かせた。

「パパがやらなきゃいけなかった事は、お仕事ともう一つ、ママがお家で寂しい思いをしないように気を遣ってあげるという事。例えばね、おじいちゃんやおばあちゃんはパパの味方になるから、そうしないようにママを大切にして!ってお願いしないといけなかったのね。簡単に言うと、ママが独りぼっちにならないように話し相手になってあげてね!とパパが言ってくれれば、良かったのよね」
「おじいちゃんとおばあちゃんは、パパとは話していたけど、ママとはあまり話、しなかったよ。ボクは良くお話ししたけど」
「純一君は可愛い孫だから大事にするわよね。ママはお嫁さんって言って、おばあちゃんやおじいちゃんから見たら他人なのよね、解る?」
「うん、生んでないからでしょ?」
「そう、お家の中に他人が入るってね、例えば純一君の仲の良いお友達の輪の中に、他所の子が入ってきたら、どうする?」
「えっ、他所の子が・・・ん〜、仲良くできるように話したり、遊んだりするかな」
「そうよね、仲間になれるように近寄るわよね。ママもそうして欲しかったのよ」
「なるほど・・・何故、おばあちゃんやおじいちゃんはママに仲良くしようって思わなかったの?」
「難しいかも知れないけど、パパが可愛かったからよ。純一君が一番仲のいいお友達に女の子が出来てその子ばかりと遊ぶようになったら、どうする?」
「僕と遊んで!って言うかな。女の子ばかりと遊んでないで・・・って」
「そうよね、自分が一番仲のいい友達を取るなよ!って思うわよね。それと同じなのよ、おじいちゃんやおばあちゃんの気持ちは」
「・・・パパはあんなに大きいのにそんな事あるの?」
「純一君に子供が出来たらきっとそう感じるわよ。親子って言うのはね、そういうものなの。ママは純一君のことを一番好きだから、今までずっと我慢してきたのよ。純一君はそろそろ大人に近づいているから、ママの気持ちも考えて、助けてあげないといけないって思うよ」
「うん、ママが喜ぶことなら、何でもするよ。ママは大好きだから・・・」

裕子は純一の優しい心がいたたまれなかった。いまさらに美津夫の罪を許せないように感じていた。

裕子と純一は晩ご飯に間に合うように家に帰ってきた。麻子はいつものことだから気にする事なく、「お帰り!手を洗いなさいよ、それからご飯だから」と声をかけた。母と裕子、麻子、純一と四人で食事を囲んだ。父は仕事でまだ帰らなかった。

「純一、香港に行く話しだけど、ママは四月のダンスの大会まで練習が必要だから、終わってから、学校休ませてもらって行くようにしたいの、いいかな?」
「ママ、ママがやりたいこと止めてまでも行きたくないから、それでいいよ。夏休みでもボクは構わないし・・・それに、裕子姉さんも一緒に行こうよ!ダメ?」
「それは姉さんに聞いてみないと解らないけど、純一がそう言ってくれるなら、気が楽になるわ。ありがとう・・・」
「いいよ、ママが決めれば。ねえ、裕子姉さん!いいよね?」
「純一君は偉いねえ・・・感心したよ。男の子だねえ・・・麻子がよければ一緒に行くよ、どう?」