天使の墓標
まるで天使だと、昨夜の邂逅を場違いにも思い起こしていた講義中。結局彼女が何者なのか答えは出ないまま、興味だけが募っていった。
わかったことは、どうやら僕が、思春期少女に毒されてしまったかもしれないということだけだ。
今夜もあの公園に行けば会えるのかもしれない、なんとなくそんな確信めいたものがあり、僕は夜が待ち遠しくなっていた。
「そういえば公園の近くの木村さんのお宅って、どうしたの」
家を出ようとすると、公園という単語が聞こえてきたのでつい反応して母親の顔を見つめてしまった。
「いや、ちょうど公園まで散歩に行こうかと思ったから」
「あらそうなの、そうそう木村さんのお宅、引っ越すんですって。確か娘さんが今年受験生だったと思うけど、こんな時期にねえ」
「……へえ」
息子の外出よりも四方山話の重要度の方が高いらしい。というか、公園なんて単語ひとつで反応する僕も大概だけれど。
「こんばんは」
昨夜に引き続き、ぼうっとしていた僕を現実に引き戻したのは涼やかな声だった。
「奇遇だね」
そんなことはないのだけれど。昨夜同様、彼女は僕の隣に座って遠くを見つめている。
「お兄さんは、幸せ?」
唐突に尋ねる彼女は依然遠くを見つめている。
「どうだろう、まあ不幸ではないかな」
彼女は別段僕のことを気にしているわけでもないようで、人に聞いておいてと思うのだけれど彼女なら仕方ない気がする。
「君は?」
「論外」
どうして彼女の笑顔は薄ら寒いのだろう。目が笑っていないからだろうか、それとも何か別の理由があるのだろうか。
「だって、こんなゴミ溜めに生まれたなんて最低だもの」
一蹴すれば簡単な言葉も、彼女が言うと変に聞き入ってしまう。
変な子だ。まるでこの世のモノじゃないみたいで、僕の中で彼女がどんどんわからなくなっていく。そして益々、彼女に惹かれている。
「きっと神様が間違えてしまったの」
私はこんなところに生まれるはずはなかった、とでも続けるつもりだったのだろうか。それきり黙ったままの彼女の顔には、それはそれは、魅入るほどに気味の悪い表情が張り付いていた。
「そうかな」
「……そうなの」
黙ったままどこかに消え失せてしまうんじゃないかと、変な期待があったのだけれど、彼女は隣に腰掛けたまま。