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独立都市リヴィラ ep.1 迷い込んだ子供

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 上司であるクリフから子供たちの事情聴取、という名目の世話役を命じられたイツキは、とりあえず彼の言葉通り昼食をとることにした。

 警備隊詰め所にある休憩所に、イツキは二人をつれていく。

 休憩所の机に外で買ってきた軽食を乗せ、子供二人と向き合うようにイツキは席に着いた。

 子供たちも警戒しながら椅子に腰をかける。少しおびえてはいるものの、机の上の軽食を興味深げに見つめていた。

「別に遠慮せずに食えよ。腹減ってんだろ」

 イツキは机に手を伸ばし包みを一つ取る。包みの中はふわりと焼かれたパンの間に具を挟んだ、リヴィラでは定番の料理だ。まだ出来立てで暖かいパンの間から溶けたチーズがあふれ出る。あたりにパンと具の匂いが広がっていった。

 おいしそうに食べているイツキに安心したのか、それとも耐えられなくなったのか。二人は一斉に料理に飛びついた。

 必死に食べ続ける二人を見て、イツキはほほえましい気持ちになる。こうしていると普通の子供のようでほっとした。

 とはいえ彼らは不法侵入と不正入国未遂の現行犯としてここにいるのだ。子供とはいえ、立場上甘やかすことはできない。処罰を下すのは司法の連中だが、調書を作るのはイツキの仕事なのだ。

「で、お前らなんだってあんな所に潜り込んでた?」

 子供たちが食べ終わったあたりを見計らって、イツキは声をかける。

 すると少年がはっとなって、イツキをにらみつけてくる。あきらかに空気のかわった片割れに気づき、少女のほうも身を堅くした。

 イツキは軽くため息をつく。これではまともに会話もできそうにない。

「……じゃあとりあえず名前は? 名前ぐらい教えてくれてもいいだろう?」

 今にもかみつきそうな少年は置いておいて、イツキは少女のほうを見る。少年のほうはきっと何も答えないだろう。おびえてはいるものの少女の方がまだ話を聞いてくれそうだった。

「……あ、……え、……えっと……ル、……ルシエラ……です……」

 なんともしどろもどろで消え入りそうな声だ。顔を青くしておびえる姿が痛ましい。

 少しでもおびえがなくなればと、イツキはルシエラに微笑む。そして、少年へと目を向けた。

 少年はいやそうな顔をしていたが、ルシエラのほうをちらりと見ると、やがて観念したかのように口を開く。

「…………ユリウス」

 ルシエラとはえらく違う、不満げな声だった。イツキは内心苦笑するが、表には出さない。

「ルシエラにユリウスね。ちなみに俺はイツキな。ここ、リヴィラの警備隊員だ」

 この二人から事情を聞き出すには、とにかく二人と信頼関係を築くしかないだろう。なんとかして彼らに警戒を解いてもらう必要がある。

 できるだけ親しみをもってもらうため、イツキも二人に名を教え、笑いかける。他人に信頼してもらうためには笑顔を絶やさず相手の目をしっかり見ることだ、とは先輩隊員の言葉だったか。

「それで、二人ともまだ小さいけどお父さんやお母さんは?」

 とりあえず基本的なところから尋ねていこう。

 と思ったが、予想以上に二人は体を堅くしてしまった。ルシエラに至っては少し目が潤んでいる。

 そういえば十ほどの子供が二人だけで馬車に不法乗車しているのだ。この子たちの両親に何かあったのだろうことぐらい想像しておいてもよかったのかもしれない。

 イツキは失敗したな、と思い、さっと違う話題を振る。

「あーえっと。そういや二人はよく似てるけど、兄妹?」

 話題が変わったことで明らかに二人は安堵の表情を浮かべた。やはり先ほどの話題はまずかったらしい。

「……双子」

 意外にも返答はユリウスからだ

「双子なのか。なるほどなぁ、よく似てるわけだ」

 思わずイツキは彼らをしげしげと見つめてしまう。あまりにも見すぎたのかユリウスに睨まれた。イツキは肩をすくめておどけてみせる。

「で、二人はどこから来たんだ?」

 生まれ故郷が分かればこの子たちの両親も見つかるかも知れない。そう思っての問いだったが、双子たちはまた全身を堅くして拒絶した。どうやらこれもダメらしい。

 どこが地雷なのかわからずイツキは思わず頭を抱えたくなった。子供の相手も、取り調べも慣れない彼にとってこれはあまりにもハードルが高すぎる。

「……あ、ところで二人とも。お揃いの帽子なのはいいができれば室内で帽子はとっておいたほうが……」

 何を言っていいか分からなくなったイツキは、ぱっと目に入ったユリウスの帽子に手を伸ばす。

 しかし、その手が届く前に、彼は素早い動きで帽子をとられまいとイツキの手を払いのけ、帽子の端をぎゅっと握りしめた。それから鋭い目でイツキをにらんだ。

 どうやらふれてはいけないところにふれてしまったらしいとイツキは悟る。

「あー悪かった。別に人がいやがることを積極的にする趣味はないから、」

 そう言うと深くかぶった帽子から、ユリウスはそっと目を出す。

「外したくなければそれでいいさ。無理にとは言わない」

 イツキの言葉に、ユリウスはあからさまにほっとした顔をする。しかし、警戒心は収まりそうにない。その空気が伝染してか、ルシエラのほうも落ち着きがなかった。

 これではらちがあかない。事情を聞き出すどころか、まともな会話もできそうになかった。子供は嫌いではないが、こうなってくるとイツキには「お手上げ」だ

「よし、」

 イツキは勢いよく立ち上がった。いきなり立ち上がった衝撃に、二人はびくっと肩をふるわせる。

「とりあえず外にでも行こう。こんなところにいても息が詰まるだけだしな」

 にっこりと二人に笑いかけながら、イツキは手を差し出す。

 そんなイツキの行動に驚いたのか、ユリウスとルシエラはお互いに顔を見合わせた。きょとんとしたその表情があまりにもそっくりで、鏡合わせのようにイツキには見えた。





  ◆





 リヴィラの商店街はとにかく人が多い。東門を通る行商隊のほとんどがここで商売をするわけだから当然といえば当然だ。色とりどりの商品が並ぶその場所は、リヴィラの名所の一つではあるのだが、二人が人混みに入るのをいやがったのであえて裏路地を進む。

「表通りは外から来る人間とかが多くなるんだけどな、こっちはここの住人が細々とやっているような店が多いんだよ」

 クリフに事情を説明し、二人の外出許可をもらったイツキはユリウスとルシエラの二人をつれてリヴィラの街を案内していた。

 最初はびくびくしていた二人だったが、次第に街の景色に目を輝かせていた。

 どんなに警戒心が強くても子供は子供だ。目新しいものに興味を持つところは同じなのだなと、イツキは微笑ましい気持ちで二人を見つめた。

 それと同時に、一つの疑問が浮かぶ。

 どうしてこんな子供だけで、他人の荷馬車に乗り込むような事態になったのか、だ。

 街の風景を二人は楽しげに見ている。だが人が近くを通るたびにその目は地面へと向けられた。

 あきらかに他人を避けるその姿はやはり異様だ。過去に何かしらあったのだろうとイツキは考える。