小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

独立都市リヴィラ ep.1 迷い込んだ子供

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

「落ち着いてください、アベルハイドさん。我々も、すぐにあなた方を疑うわけではありません」

 諭すようなクリフの言葉に、アベルハイドは青ざめた顔でこくこくとうなずいた。こんな調子で商人などつとまるのかとイツキはうろんげに彼を見る。

「この馬車に子供が乗っていたことはご存じないんですよね?」

「とんでもない! わしらは子供をつれることなどしないし、まして大事な商売道具と同じ馬車に入れるなどありえない!」

 アベルハイドは力強く言い切った。ほかの商人たちも皆一斉に首を縦に振った。誰もこのことを知らなかったらしい。

「そうですか」

 クリフは彼らの主張を聞いてから、イツキの方、正確には子供たちの方へと向きなおった。

「それで、君たちは? あそこで何をしていた?」

 クリフの問いかけに、子供たちは無言を返す。しかし、少女は口を開くことができないほどおびえているし、少年はクリフをにらみながら逃げようと必死にもがいていた。

 その様子を見たクリフは、あきらめたように目をそらす。

「アベルハイドさん。今、子供たちに事情を聞くのは無理そうです。彼らが落ち着いて事情を聞いてから処遇を……」

「子供が落ち着いてから、だと? 冗談じゃない。こっちはここでの仕事を終えたら即刻次の場所に向かわないといけないんだ!」

 クリフの提案を、アベルハイドは大きく首を振って拒絶する。さきほどまで真っ青だった顔色は真っ赤になっていた。

 そして刺さるような視線を子供たちへと向ける。

「要はこの子供らをあんたらの街に入れなければいいんだろう! おい、そこのおまえ! こいつらをさっさと奴隷商にでも売り払ってきてくれ!」

 アベルハイドは部下の一人に怒号を飛ばす。

 「奴隷商」の一言に、子供たちの体がこわばった。あんなに暴れていた少年の動きが止まる。

「落ち着いてください、アベルハイドさん。さすがにそれは……」

「わしはこのガキのせいでとんだ恥をかいたんだ! これぐらいしても罰は当たらん!」

 アベルハイドは興奮して、クリフにくってかかる。もう理性が働いているようには見えない

 そんな状態のアベルハイドを見て、イツキは内心ため息をついた。たしかに自分の知らぬところで起こった不祥事に冷静でいられないのはわかるが、これでは八つ当たりもいいところだ。

「アベルハイドさん、落ち着いて、落ち着いてください。さすがにそれは……」

 クリフはアベルハイドをなだめられるよう、言葉を探す。

「都合が悪いというのなら、このことはこちらですべて処理します。それならアベルハイドさんはいつも通り……」

「これはわしのとこで起きた問題だ! わしがこいつらを処罰して何が悪い!」

 激しく怒り狂うアベルハイドにあたりが困惑した空気に包まれる。どうも彼は感情に左右されやすいタイプのようだ。商人に向いてない、とイツキは呆れた。

「おい、そこのおまえ! そいつらをこっちによこせ!」

 アベルハイドは怒りの矛先をクリフからイツキへと向ける。子供たちの体がさらにこわばった。

「いいえ、できません」

 イツキは真っ直ぐにアベルハイドのほうを見、言い放つ。

「何を!」

「彼らはたしかにあなたの馬車に忍び込んだ不法侵入者ですが、リヴィラへの不正入国未遂者でもあります。彼らの処遇に関して、リヴィラの秩序は介入する権利を持ちます」

 イツキの言葉にアベルハイドは少したじろぐ。呆然とした目で子供たちがイツキを見上げていた。

「そして、リヴィラの秩序は罪人を奴隷の身へ落とすことを認めていません。ですので、あなたの提案は聞き入れられません。この子たちはリヴィラが保護します」

 イツキが言い切ると、アベルハイドはバツの悪そうな顔をした。真っ向から畳みかけられたせいで、少し冷静になったのかもしれない。

 腕の中の子供たちは、もう逃げ出そうとはしない。珍しいものを見るようにイツキに視線を送っていた。当人であるイツキは、それに気づかずじっとアベルハイドを見つめている。

 しばしの沈黙を破ったのは、やはりクリフだった。彼はすっとした姿勢でアベルハイドの方を向く。

「この隊員の言うとおりです。こうなってしまった以上、この問題の解決にはリヴィラの法で決めることが一番でしょう」

 クリフの言葉にアベルハイドは苦々しい顔をする。 

「この子たちの身柄はリヴィラ警備隊が預かります。その上で処罰が必要なら処罰をあたえます。あなた方はこの件に関与していないようですし、特別我らが拘束する必要はないですが……」

 どうしますか、とクリフは問いかける。

 リヴィラの法を破り子供たちを売るか、すべてを任せていつも通り商売をするか。リヴィラの法を破れば、もうこの場所で商売をすることは不可能。それをわかっている上での問いかけだった。

「ぐ……」

 アベルハイドは大きく顔をひきつらせる。そしてしばし悩んだ後、子供たちの処遇をリヴィラ警備隊に一任することを了承した。

「まったく……なんでわしがこんなめに……やはりこんな街にくるんじゃなかった……奴らが押しつけなければ……」

 アベルハイドはぶつぶつと小声で恨み言を言いながら去っていく。おおかた鉱石商人ギルドで一番実力のない男に押しつけていたのだろう。リヴィラの独自の政治体制やその成り立ちからリヴィラを忌避する人間が多いのだ。

「イツキ、よくやったな」

 アベルハイドの去り際を冷ややかに見つめていたイツキに、クリフがねぎらいの言葉をかける。

 上司からの一言に一瞬イツキは顔をゆるめそうになるが、すぐにその背後に潜む空気に、顔を引き締めた。

「クリフさん、なんか考えてますよね」

 イツキがそういうと彼はにやりと子供のように笑う。外部の前では厳格な彼だが、身内の前では少し茶目っ気のある人だ。

「警戒するな。別にただその子らの事情聴取を任そうと思っただけだ」

 未だにイツキの腕に抱かれている子供たちを見ながらクリフが言う。そういえばそろそろ腕がだるい。

「いや、クリフさん俺そろそろ休憩ですし、そういうのは俺よりもっと適任が……」

「その子らを最初に見つけたのも、かばったのもお前だ。適任というのならお前が一番だよ」

 まぁ休憩ついでに子供らと昼飯でも食ってこい、と言ってクリフはそのまま自分の持ち場へと戻って行ってしまう。

「どうすんだよ、これ……」

 腕に子供たちの重みを感じながら、イツキは途方にくれた。