小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

独立都市リヴィラ ep.1 迷い込んだ子供

INDEX|2ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 「半獣人」というのは獣人と普通の人との間に生まれた者のことを言う。彼らは普通の人の体をベースに、親である獣人の特徴を一部受け継ぐと言われていた。

「あちこちで噂になってるみたいだぜ。……悪い意味でな」

「まあそうだろうな。普通はかかわり合いになりたくないと思うだろうよ」

 基本的に半獣人を含め、種族混血は禁忌とされる。このあたりはまだマシだが、国によっては公的に狩られる立場になりうることすらあった。

 人々は基本、禁忌や厄介ごとに関わろうとはしない。例外があるとすれば、奴隷商とその顧客だろう。珍しい混血児はいい金になる。金が有り余った者たちの中には、そういった存在を手元に置きたがる者もいるのだ。おそらく逃げ出した半獣人もそのような人々の手に渡る予定だったのだろう。

 イツキは嘆息した。こういう話はどうも気が重くなる。見ればジーンも苦しげに顔を歪めていた。

 リヴィラはいつも多くの人で賑わう豊かな場所だ。そのほかの国もまた、そうだ。人々は毎日、保証された立場の上で生活している。

 しかし、そこからほんの少し目をそらしただけで、混血者や奴隷など身分を保証されない人々の存在が見えてくる。

「まあ、そうだな、俺らのほうでも気にしといてやるよ。もしかしたらこの街にもくるかもしれないし。見つければなんとかできる」

 まだ顔をしかめ続ける友人の頭をイツキはくしゃくしゃとなでながら言う。言ったことはただの気休めだ。

 もちろん実際にその半獣人がリヴィラに来たら保護はする。ここはそれができる唯一の場所だ。

「……おいこら子供扱いすんな」

 ジーンはすぐにイツキの手を払いのける。その顔には先ほどのようなかげりはもうない。

「積み荷確認終わりましたよ」

 二人に別の隊員が声をかける。イツキの後輩で生真面目な男だ。

「あぁ、じゃあ俺行くわ」

「はいよ、フールさんによろしくな」

 笑って手を振り、ジーンは行商隊に指示を出しながらリヴィラの中へと入っていった。

 

 ジーンが去ってからも、イツキは黙々と仕事を続けていた。

 すでに日は高く上り、真上に近い。夏は過ぎたといってもまだ残暑がきつく、汗が流れていく。朝に食料を与えたきりの胃がそろそろ空腹を訴え出す時間だ。

 確認が終えたばかりの馬車が、門の中に入っていく。その様子を見送った後、イツキは手持ち無沙汰に街道のほうを見た。かなり遠くの方を見ても、もう人影は見あたらない。この時間帯は隣の組が現在審査している行商隊で最後だろうとイツキはあたりをつけた。

 イツキは首を向け、隣の班の様子を見る。そこに停まっている馬車の群れから、巨大なキャラバンであることが見て取れた。人の数だけ見ても文字通り桁違いである。さすがに一組ですぐに審査をできる規模ではない。さらに向こうの班には一人新人隊員がおり、効率的に作業が進んでいるとは言いがたかった。

「イルニア、向こうの手伝い行くぞ。エレさん、こっちのほう頼みます」 

 同じ組の隊員に声をかけ、イツキは隣の応援に向かう。

 普段からよくあることなので、すぐに隊員の一人が確認するためのリストを渡してきた。どうやら鉱石のたぐいを運ぶ馬車のようだ。

 イツキは担当する馬車にさっと飛び乗る。御者や商人には一応声をかけるが、あまりいい顔はされない。ここまで厳密に積み荷を確認するのはリヴィラぐらいで、反発が多い。それでもリヴィラを訪れる商人が多いのはリヴィラ特有の品があるからだという話を前にジーンから聞いた。詳しいことまでイツキには理解できなかったが。

 馬車の中に積み上げられた箱を、一つずつ開けて中を確認する。リストにない品物が一つでもあれば、違反物として即座に報告に走らなければならない。もちろんそうめったに起こることではないが。

 イツキが手際よく確認作業を続けていると、視界に妙なものが映り込んだ。

 箱と箱の隙間にお互いに寄り添いあって静かに眠る、二人の子供だ。

 片方はくせ毛の男の子、もう一人は真っ直ぐ伸びた長い髪を持つ女の子だ。お揃いの帽子をかぶり、顔立ちはとてもよく似ている。

「は?」

 イツキは手に持つ紙に目を落とすが、もちろんそこには子供など書いていない。どれも鉱石の名前ばかりだ。いや、確認するまでもなく、こんなところに子供がいるのはどう考えても異常だった。どうやらそうめったに起こらないことが起きてしまったらしい。

 とりあえず彼らを連れ、責任者に事情を聞くべきだろう。

 イツキは子供たちのほうに近づくために、足を向けた。

「!」

 足音や振動でも感じたのか、それとも意外と鋭いのか。イツキが一歩足を踏み出した瞬間、子供たちはパッと目を覚ました。そのままイツキを驚愕した顔で見る。

「あーおまえらちょっと、」

 イツキが声をかける。それを合図に、少年は少女の手を持って立ち上がり、イツキの横をすり抜けようと駆けだした。

 子供にしてはあまりにも思い切りのいい行動に、イツキは反応が遅れた。その間に子供たちは馬車から飛び降りる。

 しかし、イツキもそれを見過ごすわけにはいかない。すぐさま後を追って飛び降り、馬車から数メートル離れた場所で彼らを捕まえた。

「やめろっ! はなせ!」

 少年がじたばたと暴れる。少女のほうはおとなしくしているが、その顔は気の毒になるほど真っ青になっていた。

 イツキがとにかく少年を逃がさないように必死になっていると、異常に気づいた隊員や、行商人たちが近づいてきた。

「イツキ! 何があった!」

 一番にイツキに駆け寄ったのは、今日この場での責任者でもある、壮年の警備隊員だ。彼はイツキの腕の中にいる二人の子供を驚愕した顔で見つめる。

「すいませんクリフさん、ちょっと、ってこら暴れるな!」

 イツキは上司であるクリフに事情を説明しようとするが、少年が暴れてそれどころではない。なんとか彼の動きを止め、報告を始めた。

「この馬車の奥に、この子たちがいたんです。ちょうど箱に隠れる位置です」

 該当位置を指しながら、イツキが説明する。

 その間に、少し恰幅のいい男性が近づいてきた。

「いったい何事ですか!」

 焦ってやってきたその男の顔はイツキにも見覚えがある。この行商隊を率いる、そこそこ名の知れた商人だったはずだ。名前はたしか、アベルハイドと言っただろうか。

 気がつくと、この行商隊に所属する商人や御者、護衛のための傭兵たちまで彼の周りに集まってきている。

「アベルハイドさん、あなた方の馬車の中にこの子供たちが乗り込んでいたようです」

 突然の状態にあわてる商人に、クリフは冷静に状況を説明し出す。責任者である彼の落ち着いた態度に、イツキも少し気持ちを鎮めることができた。

「子供……? わ、わしは知らんぞ、そんな……」

 事態を知ってアベルハイドは慌てふためく。荷物に申告外の物品があれば、それは立派な規約違反だ。故意であれば罪に問われるし、故意でなくとも信頼が重要な彼らにとって、そのような疑いをかけられること自体が汚点となりうることなのだろう。