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7.事情(11/12) :ワンノン


 ワンノンは、「自分はものすごく弱い」ということを豪語するような男である。
 そしてその宣言に恥じぬほど、しょっちゅう拉致されたり脅迫されたりしている。
 が、どういうわけか最後には、その相手を顧客にして何事もなかったかのように事務所に帰ってくる、というのがおおかたのパターンである。
 だが、今回は少々事情が違った。

「だからネー、いくら言われてもその情報だけはあげられないのヨ」
 椅子に縛り付けられ、口の端から血をにじませ、それでも余裕ありげにそう繰り返す彼に、相対する男は苛立ちを隠さず彼を再び殴りつけた。
「…痛いナァ」
「おい、いい加減にしないと殺すぞ!」
「知ってるヨー。あんたたちは今までモ、こうやって拉致って殴ってタダ同然でオレから情報持ってってたもんネー。その言葉が本気なのはわかるんだけド、その情報だけは絶対にあげられないのヨ」
「何故だ!」
「理由知りたイ? もうすぐわかるヨ」
 その言葉とほぼ同時に、部屋の外で大きな破壊音がした。
「!? なんだ!?」
「気にせずあっちの窓から逃げたほうがいいと思うヨー」
 ワンノンの言葉を無視し、扉を開いた彼は恐ろしいものを目撃した。
「なんだと…」
 彼の組織がアジトとして利用している倉庫。
 その倉庫の薄いトタン屋根をぶちぬき、空から大量の人間がアジト内に飛び込んでくる。
 みればそれはすべて、彼らの敵対組織…ワンノンに情報を聞き出そうとしていた組織の人間であった。
 自分の仲間が逃げ惑い、捕らわれ、あるいは胸を撃ち抜かれている光景を見て、慌てて彼は扉を閉める。
「アーア、もう駄目だネー。きっと顔見られたヨ。あんたもう逃げられないネ」
「な、なんで…なんであいつらが」
「ややこしい事情があってネー。要はあの人達の情報目的でオレを拉致するト、あの人達が乗り込んでくるのヨ」
「罠か!?」
「違うんだけド、ある意味罠ネー。ご愁傷様」
「くっそ、こうなったら」
「あ、オレを盾にしても無駄だからネ。あの人達喜んでオレと一緒にあんた殺すヨ」
「なっ…」
 最後の手段とばかりに駆け寄ってきた男に、止めの一撃。
「なんなんだよ…どういうことなんだよこれは!」
「事情があんのよ事情が。一つだけ言えるのは、俺とあいつらの関係が相互利用なんて生易しいもんじゃないってことだけだ」
 そう言ってワンノンは、目の前の男に意味ありげに笑ってみせた。