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33.私の名前(12/8) :マスターと魔王


「×××××、止まれ」
 言葉が聞こえた瞬間、剣を構えたままの私の身体がギシリと音を立てて止まった。
 そして、私の脳裏に大きな焦りが浮かぶ。
「…なぜ…その名を…!?」
 男が唱えたそれは、捨てたはずの私の真名であった。
「あんたたちが真名を大切にするのと同じように、俺の世界でも名前ってのは重要な道具でね。それを調べる手段も、それを使う手段もごまんとあるんだよ」
 我が名を唱えた男…我々からすれば子供といったほうが正しいだろう…が、こともなげにそう答える。
「てことで×××××、座れ」
 いくら真名を唱えられたといってもこんな子供…しかも人間の子供なぞに私を制御出来るはずが…
 私の思考を無視し、私の身体はその場に座り込む。
「くっ…」
「はいちょっとぞわっとするよー」
 男は私に近寄ると、無造作に腕を伸ばし私の額に触れた。
 額から全身に、なんともいえない怠さが広がってゆく。
 皮膚の上を、ぞわりとしたものが伝わってゆく。
 魔力と記憶のコピーを吸われているのだ、とわかっているのに抵抗できないのが悔しくて、私はただ男を睨みつけた。
 時間としては一分にも満たないだろう。
 男が手を離したときには私は肩で息をしていた。
 魔物である我々にとって、魔力と体力はほとんど同義と言ってもいい。
 術を掛けられていなかったとしても、私はもう動けやしないだろうと思った。
「ふぅん…やっぱり王様の真名はアレで合ってるんだね。一応調べてはあったんだけどさー。確信が持てないからって真名を知ってる人捜し回ってたら結局ここまで来ちゃった」
「なんだと…ここに来るまでに出会った部下たちすべてに同じ事をして回ったとでもいうのか…!?」
「まぁそうなるかな。でも真名を使うつもりはないんだけどね」
「…?」
「いや、王様は絶対に手抜きして戦うでしょ? 相手が人間のガキだし。だったらこっちも本気じゃ駄目かなって」
「貴様…我らが王に手抜きで戦って勝てるとでも…?」
「思ってるよ。それにほら、本気で戦って叩きのめしちゃったら可哀想じゃん。仮にも王様なんだから」
「我が王を馬鹿にするな…!」
「馬鹿になんかしてないよ。だったらわざわざこんなところまで来ないし…じゃ、そろそろ行こうか。×××××、立て」
「×××××、その扉を開け」
「×××××、そこで待機」
 何一つ抵抗もできないまま、私の身体は王の間への扉を開き、その前に棒立ちになる。
「じゃ、見届け人よろしく」
「王が貴様程度に負けるはずがない」
「だからそれも含めて見届けよろしく」
 そう言い置いて、男が王の間へと…我が王の眼前へと向かう。
 その後見たものは、出来ることなら忘れたいと願っている。
 我が王が人間の子供に一から十まで翻弄され、降参を宣言した光景だった…