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それは本当にキーンという文字がコマにあてがわれるような。もろく風化した壁がぱらぱらと破片を落としながら音を反響させるような。僕の脳みそがぐわんぐわんと揺さぶられるような、そんな、感じ。おそるおそる振り向いたその先。盛り上がった瓦礫の山、天井から差し込む光がスポットライトの様で、うつむいた彼女は仁王立ちで殺気に似た何かを帯びてそこに立っていた。
「いいわ。クリーン宣言だかなんだか知らないけど、汚いだの臭いだの、そんな扱いで.......そんな陳腐な理由で......」
僕は来るべき何かに震える彼女に圧倒され、何も言えなかった。
「面白いじゃない。最高の暇つぶしね。いいこと、この世界は誰にも変えさせたりしない。この生活は誰にも譲らない。守るの、いつか死ぬんだから。それまでは生きるのよ自由に、好きに。」
「えっと.....」
「働きなさい、尽くしなさい、側にいなさい」
少女はまっすぐに僕を指差す。
「.....え、は?」
「いい?今まで通りよ、わかった?逃げてどうするのよ。悔しいじゃない。私が困るじゃない。そんなの嫌よ。今まで通りよ。今まで通り私に布を届けなさい。私から大切なものを取り上げないで。...........私も、あなたと一緒に」
彼女はそこで言葉を一端止め、くるりと後ろを向く。
「あなたと一緒にここを守るから」
一瞬僕は何を言われたのか理解が追いつかなくて、少女の後ろ姿をただ見つめていた。小さな背中、紫色のドレス。裾が広がっていて、フリフリしていてごてごてしていて、相変わらず動きにくそうで。後ろを向いていてもあのつり上がった目がすぐに想像できる。今だって拳をかたく握りしめて、ずっと自分のつま先を見つめている。きっと歯でも食いしばってんだ。
それでも降り注ぐ日差しは柔らかく彼女を包み込んでいて。
僕はまるで舞台でも観ているかのような気分で。
邪魔だ、来るなと言い続けていたはずの彼女の口から出た言葉。少し遅れて僕の鼓膜を振るわせている。
「私も、あなたと一緒に」
返事は口からこぼれ落ちるようにとろりと漏れた。
「うん。うん、わかった」