爪つむ女
「何やってんだよ!」
布団を跳ね除けて、雄次は怒りを顕わにした荒っぽい口調で、その言葉を和江にぶつけた。
一瞬身を引いた和江は、その言葉を悲しい気持ちで受け止めた。
以前にも同じことをしたけれど、その時の雄次はこんな風に怒ったりはしなかったのに……。
あの頃とは気持ちが変わってきていることを認めないわけにはいかない。
もう別れは遠くない――そう思うと涙がこぼれた。
「何も泣くことはないだろう」
さっきよりは少しだけ穏やかな声色で、雄次が畳み掛けるように言った。
「だって……」
それだけ言うと、また和江の瞳から涙がつつぅと転がり落ちた。
「泣くなよ! 鬱陶しいなぁ」
いかにも面倒くさそうに言葉を吐き出すと、続けて言った。
「どうして寝てる時に勝手に俺の足の爪をつむんだよ! 寝てられないじゃないか」
「だって、気になって……伸びてたし」
「伸びてようが、伸びてなかろうが、俺の足の爪は、爪とはいえ俺の身体の一部なんだぞ。お前が勝手につむ権利なんかないだろ?!」
ベッドから出て立ち上がると、雄次はとどめの捨て台詞を和江の方を見ずに投げつけた。
「もう俺に構うな。放っといてくれ!」
和江が囁くような声で「ごめんなさい」と言ったが、果たして雄次の耳に届いたかどうか、それに対して雄次は何も応えずそのままトイレに入ったようだった。
雄次はトイレの便器に腰掛けて、常備してある煙草に火を付けた。
――和江とこうして一緒に暮らすようになってもう二年以上になるのか。早いもんだ。
あの時和江と再会したのは『運命』なのだと感じたのは錯覚だったんだろうか――