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表と裏の狭間には 二十話―内乱勃発―

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『頼むぞ。』
「ああ。」
俺は、通信を切った。
ここは海辺の倉庫街だ。
使われている倉庫や、使われていない倉庫が、所狭しと並んでいる。
「しかし、発信機を服に縫い込むとはねぇ………。」
しかもそれを、常時身につけるなど。
誰が予想できるか、そんなもん。
「紫苑さん、この辺ですか?」
「えっと、ああ、この近くだね。じゃ、打ち合わせどおりに頼むよ。」
「了解しました。」

「で?追加の指示ってのは?」
「そうだな。『倉庫街に向かい、敵の溜まり場を征圧し、捕らわれているであろう隊員を救出せよ。その際の指令役代理は、拠点に残っている班員に一任せよ』ってところかな。」
「何だそりゃ。」
「ちなみに、救出するべき隊員がいる位置はここだ。」
差し出された電子機器(一般製品)の画面に表示されているのは、倉庫街の地図と、ある倉庫の中で光る点だ。
「これはある発信機の位置でな。その発信機は、ある女子高生の制服に縫い付けられたものだ。その女子高生は、『図書館に行く』と言ったきり、行方不明なんだ。」
「………まさか。」
「ああ。頼むぞ。」

「ええ。分かりましたわ。では、すぐに撤収なさってくださいな。」
桜沢美雪は、誰かとそう会話したあと、その端末をしまった。
「何よ。」
「良かったですわね。あなた、生きて帰れますわよ。」
「はぁ?」
「先ほど、上層部がわたくしたちの独立を承認したそうですわ。まあ、その条件として、あなたを五体満足無傷で帰すこと、とされましたが。」
「へぇ、うちの上層部って、そんな温かみのある奴らだったかしら?」
「なんでも、国のほうから圧力がかかったとかで。」
煌が知らせたのね。全く、余計なことを………。
「では、わたくしたちはそろそろ撤収いたしますわ。お父様、それでよろしいですわね?」
「ああ、いいよ。」
………どうにか、無事に終わりそうね。
紫苑の到着は間に合わなかったけど、それも今思えばよかったのかもしれない。
何故なら、この倉庫の中で縛られて転がされている一般人というのは。

紫苑の、恋人なのだから。

「そうそう。撤収する前に、散々わたくしとお父様を愚弄してくださった落とし前、つけていただかなくてはなりませんわね。」
「どうすんのよ?あたしを傷つけるなって言われたんでしょう?」
「ええ言われましたわ。でもね。」
そう言いながら、桜沢美雪は銃を抜く。
「そこに転がされている一般人に関しては、なんの制約もつけられていませんわ。」
「やめなさい!!」
桜沢美雪は、あたしの言うことを無視して、その一般人に銃を向ける。
そこで――
「突入!」
響いたのは、もう完全に耳に馴染んだ、今最も来るべきではなかった人の声。

「突入!」
俺が突入指示を出すと、二人が効率よく扉を開け、二人が飛び込む。その後に俺も続く。
俺が入ると、そこは中々カオスな状況だった。
縛られて柱にくくりつけられているゆり、床に転がされている、気絶しているらしい少女。
その少女に銃を向けている、見るからにお嬢様な少女。
更に、壁際に突っ立っている、大柄な男。
倉庫の中は、どこと無く混沌としていた。
「霧崎平志!覚悟しろ!!」
俺の両脇に立っていた二人の隊員が、大柄な男に向かってあっさり銃を放つ。
だが。
バン、バン、という二つの銃声。
カラン、カラン、という、二つの薬莢が床に落ちる音。
そして、もう二つ。
カラン、カラン、と。
弾頭が床に落ちる音が、響いた。
「は……?」
霧崎平志(と呼ばれていた男)に、確かに着弾したはずの弾丸は、しかし、潰れただけで床に落ちた。
信じられない。
目で見たものが、信じられない。
人間に着弾した弾丸は、普通ならば潰れて着弾面積を広げた後、肉体にめり込み、傷を負わせるはずだ。
だが。
霧崎平志に着弾した弾丸は、潰れただけで、床に落ちた。
「ふん。」
そう呟くと、その男はこちらへ歩み寄ってくる。
俺の横にいる二人の隊員は必死で銃を撃つのだが、当然のように効かない。
俺はというと、完璧に呑まれていた。
その男の、雰囲気、というか、オーラ、といったようなものに。
ああ、と。
『ああ、俺はどうあってもこいつには勝てない』と、確信した。
それは、諦観に似た感情だったかもしれない。
抵抗する気すらも失せる。
霧崎平志は、俺を素通りすると、二人の隊員を壁に叩きつけて気絶させてしまった。
そして、俺の後ろで、こう呟いた。
「今回はもう撤収する。お前たちに危害を加えるつもりは無い。だが、娘には気をつけたほうがいいぞ。」
その言葉が気になって、どういうことか訊こうと振り返ろうとした、まさにその時だった。
「あなたが、柊紫苑ですわね?」
お嬢様のような少女に、声を掛けられた。
その少女は、入学当初のレンよりも、ずっと『深窓の令嬢』といった雰囲気だ。
だからこそ、手に持つ銃がアンバランスだ。
「こんな格好で申し訳ありませんわね。わたくし、霧崎平志の娘、桜沢美雪と申しますの。」
「あ、ああ……。」
「ところで、ここで転がっている女、あなたに見覚えはありませんかしら?」
「は……?」
言われて、床に転がされている少女を凝視する。
顔は見えないが……あれ?
……………………。
……………まさか。
まさか、おい、嘘だろ?
でも、あの背格好、赤毛のショート、それに何より、あの服装。
「レン!?」
俺は、咄嗟に、桜沢美雪に銃口を向けた。
レンに銃を向けている奴がいる。そう思ったら、自然に手が動いた。
だが。
「ん…………、紫苑?」
レンの意識が、戻ったようだ。
そして、自らの置かれている状況を確認し、目を見張る。
「紫苑……その格好……!?」
俺は、ゆりの命令でマスクをしていない。
入れ替わりを防ぐための措置だそうだ。
だから、レンには、俺が俺だってすぐに分かったのだろう。
自分に銃を向けられているという状況よりも先に、俺の格好に気が向くとは、レンらしいといえばらしい。
だが、問題はそこではない。
「テメェ、銃を降ろせ。」

「テメェ、銃を降ろせ。」
ああ、案の定、紫苑がキレてしまった。
一瞬で。
前にも一度だけ見たことがあるけれど、紫苑が本気でキレると、煌よりも、そこいらのヤクザよりもよっぽど怖い。
「自分の恋人の事となると、そこまでのドスを利かせられるというのも、情報どおりのようですわね。」
なのに、桜沢美雪は全く動じない。
こいつ、何を考えているの?
「黙れ。さっさと銃を降ろせ。撃つぞ。」
「ねぇ、楓ゆりさん?何故このわたくしが、この雅蓮華さんを攫ってきたと思います?このわたくしが、わざわざこの方を選んで連れてきた理由、お分かりになりますか?」
「蓮華を……連れてきた理由、ですって?」
「ええ。わたくしは、偶然この雅蓮華を連れてきたわけではありませんの。この雅蓮華を選んで連れてきたんですわ。」
「…………まさか、とは思うけど、あなた……!」
「ええ。正解ですわ。あなたが、星砂煌を動かさないのは始めから分かっておりましたの。そして、代わりにどなたを出すのかもね。あなたの作戦は、初めからお見通しでしたのよ。」
「やめなさい。」