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表と裏の狭間には 二十話―内乱勃発―

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「そして、あえて穴を作りましたのよ。そこの、柊紫苑に、絶望を味わわせるために。もっと言えば、あなたの家族を絶望させるためですわ。」
「だから、やめなさい。」
「ここで、この柊紫苑の前で、雅蓮華を撃てば、柊紫苑は絶望のどん底に突き落とされるはずですわ。」
「紫苑!こいつを撃ちなさい!早く!」
「無理ですわよね?柊紫苑。わたくし、あなたのことを調べましたの。アーク入隊以降、あなたが銃を撃ったのは、訓練所で的を相手にしたときのみですわよね。それ以降、定期訓練のとき以外は、一度も発砲しておりませんわね。人に向けては勿論、施設外での発砲はありませんわね。そんなあなたに、このわたくしが撃てますかしら?愛する人の目の前で。」
「この………ッ!桜沢美雪!やめなさい!!」
「断じてやめませんわ。わたくしを甘いだのなんだのと罵ってくださった借り、きっちり返させて頂きますわ。」
蓮華は、言葉を失っている。
そりゃそうだ。こんな異常な状況下で、口を挟むなんて出来るわけが無い。
紫苑は――手が、完全に震えている。
完璧に動揺している。
あれじゃあ、撃つにしても当たるかどうか……。
でも、紫苑。
「撃ちなさい!桜沢美雪は本気よ!!早く!早く撃つのよ!!」

「撃ちなさい!桜沢美雪は本気よ!!早く!早く撃つのよ!!」
ゆりの声が、すっかり遠く聞こえる。
俺が来ることが、初めから、分かっていた?
そして、俺をわざと、おびき寄せた?
霧崎平志が俺をスルーしたのは、そのためか?
そして、俺の前で撃つために、レンを攫ってきた?
そして、レンを守るためには、撃つしか、ないのか……?
でも、俺は…………。
そうだ………。
人を殺すことに、嫌悪感を抱いていた。
恐怖感を抱いていた。
人を殺すことなんか、出来ない。
殺さなくてもいい。
ただ、動けなくすればいい。
でも、人を撃つなんて。
人間を撃つなんて。
覚悟していたはずだ。
アークに入隊した時点で、覚悟はしたはずだ。
でも。
銃を向ける事は出来ても、引き金を引く事は……。
それに、レンに人が血を流すところを見せたくない。
レンは、こんなふざけた世界を垣間見せたくない。
それに。
レンの前で人を傷つけたりしたくない、なんて。
そんな浅ましい思いも。
「あなたはわたくしを撃つ事はできませんわ。でも、わたくしは違いますわ。わたくしは。」
その、女は。
レンに、銃口を………。
「………銃を降ろせ。」
「そうも声が震えていては、怖さも何もあったものじゃないですわね。さて、そろそろわたくしも撤収しなければなりませんので。」
「………やめろ。」
「お別れですわ。申し訳ありませんでしたわね、雅蓮華さん。後はお眠りになってくださって、結構ですわ。」

冬の夜。
その悲劇は、確固として、人を、変えた。
人を、そして、人生を。

夜の倉庫街に、一発の銃声が響き渡る。
更に、もう一発。
そして、一人の少年の、悲痛な叫びが。
その叫びに呼応するかのように、冷たい雨が降る。



次回、最終話。