ホワイト・グ-ス・ダウン
しかし、それも束の間、
「ああ、もうこんなガチョウの毛むじゃらでは、愛する会社に行けないよ」と、
高見沢は完全に落ち込みモ−ド。
だが、妻・夏子は容赦をしない。
「で、パパ、どうするつもりなの?
毛剃る、それとも焼き切ってみる?
そうそう茹でて、毛抜きする?
手伝ってあげようか」
高見沢は希望を失ってしまっているというのに、
矢継ぎ早に … なんと夏子は力強い暴言を。
そしてさらに、こんな悲劇的なシチュエーションで、実に懐かしそうに仰るのだ。
「そうそう思い出したわ、
昔、おばあちゃんがニワトリをシメはった後に、血抜きをして、毛焼いてはったよ、
茹でて抜くより、毛は焼いた方が肉の味が落ちないんだって … やっぱり焼こうか?」
これが30年連れ添った愛妻の言葉なのか。
「なんとしても愛する会社に行かなければ」
そんな使命感に燃え、思い悩んでいるのに。
確かに、苦境の中での妻の進言はありがたい。
されどまったく動じず、「やっぱり焼こうか」って … ひどすぎるよ!
もし子供がいなければ … と脳裏をかすめるが。
いやいや、とにかくそんな事よりは … やっぱり今が紛れもなく人生の危機。
「あ〜あ、俺はもう二度と会社に行けないかも」
これは出勤出来ない恐怖症。
そんな恐怖で、ガチョウの大きめの鳥肌が立ってきた。
しかし、ここはもう一度自己を奮い立たせ、
「夏子、もうなんとしてでも出勤するから、朝御飯つくってくれよ」と頼んだ。
作品名:ホワイト・グ-ス・ダウン 作家名:鮎風 遊