炎舞 第二章 『開花』
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二
南の地、桜の都。
華麗に花を咲かす桜と共に、朱鬼族が住まう地。大路、小路関係なく自生する桜は、都の夜の色さえ変えてしまう。雅やかな造りの屋敷が立ち並ぶ通りを過ぎ、水蓮の橋を渡ると、高々と聳える大門が出迎える。門口を通過すると、枝振りのいい桜に囲まれた大きな拝殿が眼前に飛びこむ。広大なこの敷地内は朱雀宮と呼ばれ、清浄な空気が満ち、一種独特の、凛とした雰囲気が漂っていた。
「―――あぁ~なんかお酒飲みたい気分やわ~」
「ははっ、気持ちはわかるがまたの機会にしようぜ。今は死んでった仲間を自分達の地へ連れて帰って供養してやらねぇとな」
吹き抜けとなっているその場で、綿津見達が緊張の解けた調子で言葉を交わす。
「……わかっとるよ。北で待ってるあたしの民にも、戦いが終わったこと、早(はよ)う報告してやらんと。なぁ? 荒鉄」
「………」
「? 荒鉄? どうしたん?」
綿津見の声が聞こえていないかのように、荒鉄の視線は拝殿の奥の方へと向けられたままだ。
「おい、どうしたよ」
神風が軽く肩を叩くと、ようやく気づいた荒鉄が「…ああ」と言って二人へ振り返る。その表情は気のせいか、やや曇っているように見えた。
「何か気になるん?」
「……いや。何でもない、すまないな。……それにしても、玉響と陽炎、遅いな」
「玉響の着物、神明に食われてかなりはだけてたからな。着替えてから俺ら見送るっつってたけど……」
「あ、もしかしたら、着替え手伝う途中で陽炎が玉響にガバチョーっと…」
「陽炎がんなことするわけねーだろっ!!」
賑やかに騒ぐ二人の横で、荒鉄は不安げに視線を拝殿へ戻した。視界の中で、雨の上がった夜空を雲が流れ、三日月が見え隠れしている。雪のように舞う花弁の色が、異様に紅く見えた。
作品名:炎舞 第二章 『開花』 作家名:愁水