さくら
私は地方の町で画廊を開いている。ほとんどが固定客で成り立っている。
ある暖かな日のことである。若い娘が一枚の絵をもって店に現れた。
「すいません、この絵を買ってくれませんか」
6号ほどのキャンバスに描かれていた。さくらの絵である。
「あなたが描いたのですか?」
私は余りの巧さに驚いた。
「はい」
「いかほどで」
「いくらでも決めてください」
「では預かって売れたらいくらと言うのでは」
「それでいいです。それと私、住む所がないんです。このお店で使って下さい」
年は22,3歳。家出をしたにしても自分に責任を持てる年である。
私の店は人を雇うほど忙しくない。