傷
このまま会計を済ませて帰ろうかと考えた。
しかし、金を持たない彼女がどうやって帰るかを想像すると、それも出来なかった。
「いいお風呂よ」
娘のような親しさである。
「風呂に行ってくる」
青田はそう言って部屋を出た。
風呂から出て部屋に戻ると、大塚桜の姿は無かった。
乱暴に浴衣が脱ぎ捨てられていた。
皮ジャンを調べると財布がない。
大した金は入っては無いが、免許証があったのだ。
だが青田は後を追う気にはならなかった。
由美に電話を入れた。
「今日は鬼怒川に泊った。また電話する」
たったそれだけで切った。
夕食をひろ間に食べに行く気持ちにもなれなかった。
青田は大塚桜を憎む気持ちは無かった。