傷
青田は秋草の運転で自宅に戻った。
「今日偶然に病院で山崎さんに会ったよ。由美も懐かしいと思って来てもらった」
「お邪魔します」
「山崎さんね。30年振りかしら」
2人は抱き合って、再会を喜んだ。
由美は同時に山崎への後ろめたさを感じていた。
詩の事である。
夫の青田に初めてアパートで会った時、山崎に詩を書いてやったのだと言った。それは嘘に近かったのであった。
最後の一行の・・・夢を乗せる
それだけが由美の作品であった。もし、青田が詩を思い出したことで自分を求めたのであれば、山崎には申し訳ないと思い続けていたのであった。
「どうして病院に行ったの」
「転んで少しわき腹を怪我してね」
「もう年なんですから、気をつけてくださいね」