傷
青田は秋草を他の男に渡したくはなかった。
青田にとって秋草は初恋の人であった。今、森田が思っている事はいつか青田自身にも、起こる事ではないかと感じていた。
幸子の人生を決めることより、青田自身のこれからの生き方を決めなくてはならないのだ。
「絵の道は自分は楽しいと思うわ、でも人を助けてあげられるのは医者と思うの。好きじゃないけれど、自分の生き方考えたの、自分が楽しく生きて行くか、人のために嫌いな事でも生きて行くか」
青田は幸子が医大を選んだ時に言った言葉を思い出した。
青田の心と体は分離していた。
心では秋草と別れなければいけないと感じていながら、体を支配する気持ちは、由美とのマンネリ的な性行為よりも、秋草との背徳の行為の悦びを欲していた。
「何とか話をつけようか」
「いいの、あなたの気持ちを知りたくて」
「離婚は出来ないが、別れたくはない」