傷
北野はそう言って、セスナ機を大きく旋回した。
身体が放り出されるような感じであった。
「怖い」
幸子が声を出した。
「初めての経験は大切なのよ、2度目はそれほど怖く感じないか、死ぬほど怖くなって飛行機が嫌いになるかだわ」
北野は
「お医者も同じよ」
と言葉を付け加えた。
幸子はなにもしないうちから嫌いだの怖がっていても仕方ないと感じた。
「もう一度お願いします」
「墜落してしまうかもよ」
「信じてますから」
「ありがとう。大切な言葉だわ」
北野は幸子の注文におおじてくれた。
もし墜落してしまえば命は無いのであるが、幸子は初めて会った北野の操縦を信じられた。