傷
だが、今の青田は北野には踏み込んでいける気持ちがあった。
アレスの社長は青田を信用していたから、青田の報告を鵜呑みにしてくれた。
青田は北野の教えてくれた携帯に初めて電話をかけた。
「青田です。先日の件うまくまとまりました」
「本当、ありがとうございます。お礼はさせてくださいね」
「ゆっくり会いたい」
「解りました。またお電話下さいね。失礼します」
切れてしまったのに青田はまだ耳に当てていた。
青田が今北野に求めているのは、変化である気がした。
同じような平凡さが幸せなのだと思い続けたが、変わりへの挑戦も幸せを噛むことになるのではないかと思い始めた。
これから青田が北野に求める幸せは、間違えば由美や幸子を不幸にさせてしまう危険を持っている事を青田は解っていた。
青田の心の隅にそれらは金で解決できるという気持ちがあった。
それまでしても青田には北野が魅力的に見えたのだ。