傷
たった指が1本少なくなったことで、青田の心は解放された。
青田はその時に初めて気がついたことがあった。
指が1本少なかったらどんなことになっていたか。
わが子幸子は、これで普通の人間と同じになったのである。
不幸中の幸いであると感じた。
どうにもならないまま生きて行かなければならない人間が存在していることを認識したのである。
青田はどんなことがあっても幸子を幸せにしなくてはならないと覚悟した。
幸子のために仕事をした。
事務員も6人になり、仕事は順調に伸びて行った。
幸子を幸せにしたいがために次の子はつくらないことにした。
まだ、青田も由美も心のどこかに奇形への恐怖も残っていたのかも知れなかった。
幸子はピアノ、バレーと習い事を始めた。
中学生になると、自分から絵が習いたいと言いだした。
勉強も良く出来た。塾にも行かず女子では1番であった。