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てっしゅう
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「忘れられない」 第四章 手がかり

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仁美は有紀の美しさに少し嫉妬していた。また、有紀に不足している女らしさを感じて欲しいとも同時に思っていた。

翌朝早くに目を覚ました有紀はいつも自宅でしている散歩に出かけた。肌寒さの残る薄暗い中をゆっくりと歩き始める。慣れてくると少し早足にして、途中少しジョギングをする。40分から50分ぐらいの時間を費やして、身体が温まってきた頃に戻ってきた。玄関を掃除していた主人が有紀を見て、

「おや、ジョギングですか・・・お元気ですね。いや〜感心です。若さの秘訣ですね」そう声かけた。
「ありがとうございます。毎日やっておりますので、何かしないと気持悪くって、この辺りはのどかで景色もいいですね。近くにあったお寺は有名なのですか?」
「ああ、階段を上がったところにあるお寺ね。あそこはね、周りが全部アジサイの花になっていて6月頃に来られると、とても綺麗ですよ。アジサイ寺ってこの辺りでは呼んでいますから」
「そうなんですか・・・アジサイ寺ですか・・・アジサイの花言葉って、移り気なんですよね。花は好きだけど、なんだかお寺には相応しくないような気がします」
「なるほど・・・寺に相応しくないですか・・・この辺りはアジサイが有名なのでたくさん植わってますね。土地柄でしょうか・・・アジサイには元気な女性という意味の花言葉もあるようです。あなた様にふさわしくはないですか?」
「そうですか・・・知りませんでした。元気な女性・・・ね。そうかも知れませんね、浮気者という意味じゃなければ歓迎です、ハハハ・・・」
「面白い方だ、埜畑さんは。英ちゃんが話していたように、男性から見ればとても魅力的な女性に思えますね。同感だ、ハハハ・・・いや失礼しました。朝ごはんにしましょう」
「はい、では着替えてから参りますので・・・」

部屋で着替えを済ませて待っていた仁美は、あなた元気ねえ〜、と感心してじっと見つめた。すっぴんの有紀の顔からはうっすらと汗が感じられた。シャワーを浴びに浴室に入るその後姿は、とても50になる女性を感じさせないと仁美は見ていた。

さっぱりとした顔で浴室から出てきた有紀は、直ぐに着替えて、軽く化粧をして待っていた仁美に「お待たせ」と言って、朝食場所へ誘った。朝から食べきれないほどいくつかのおかずと味噌汁が用意されていた。もちろん赤味噌である。

有紀はその細い身体に似合わずよく食べる。しかし、肉類と油物は少ししか食べない。それは徹底していた。体質もあるのだろうが、よく食べよく動きストレスを溜めない事が美容と健康の秘訣かも知れないと仁美は有紀を見て思っていた。

食事の後コーヒーを出してくれた主人は、有紀に向かって「今日はどうされる予定ですか?」と尋ねてくれた。「考えていません」と返事すると、「それでは、宅配便の友人から連絡があるまで、待たれますか?それとも観光に出かけられますか?」と言われたので、仁美と顔を見合わせて、「少し待ちます」と答えた。場合によっては「もう少し泊まらせて頂くかも知れません」と念押しをして、了承をもらった。

部屋に戻って、テレビをつけて少しゆっくりと時間を過ごしていた。今までこんなにのんびりと過ごした事があまり無かったから、仁美はとても嬉しかった。有紀とのおしゃべりも鋭い部分を突くようになってきた。

「ねえ、明雄さんに逢えたら、なんていうの?決めてる?」
「ええ?そうね、元気でした?って聴くかしら・・・」
「つまんない!そんなの。30年待ったのでしょう?もっと強く言わなきゃ」
「たとえば、なんていうの?もしあなただったら」
「そうね・・・どうして連絡くれなかったの!好きじゃなくなったの?・・・って感じかな」
「う〜ん、気持はそうだけど、言えないなあ・・・やっぱり、逢えて嬉しい!ぐらいかな・・・言えても」
「そうなの・・・有紀さんはこう見えて純情だから、泣き出すかも?」
「どう見えるのよ!失礼ね・・・でも、そうかも知れない・・・なあ」
「じゃあ、明雄さんが好きって言ってくれたら、その後はどうするの?」
「えっ?そのあと?」
「勘が鈍いわね!抱き合うとかキスをするとかあるでしょう」

何が聞きたいのかと疑う有紀であった。

「有紀さんは本当に純情なのね・・・今時その年齢で信じられないわ」仁美はいやみと知りながらそう言った。
「仁美さん、本当は何が聞きたいの?答えられる事なら何でも言うから言っていいのよ」
「つまりね・・・抱かれたくないのかって思うのよ。私なら、離れていたらより強くそう思うから・・・」
「思わないわ。今は逢える事だけが望みだしね。その後いろいろ話が出来て、まだ私の事が好きって言ってくれるのなら、彼にすべてをゆだねる覚悟はあるのよ」
「そう?その時ってどんな気持ちだろうね・・・ドキドキして、きっと心臓が口から飛び出しそうになるわよ、ハハハ・・・」
「もう、悪い冗談を言って・・・あなたこそ、誰かさんとそうなりたいんじゃないの?」
「言うわね・・・仕返し?」
「そうじゃないけど、言いたくもなるわよ。自分の心にある不満を私をダシにして確かめようとしているのよね?違う」
「そんなふうに取るの?・・・う〜ん、あなたは鋭い人ね。時々怖くなっちゃう。ねえ、女は性欲があっちゃダメって思う?」
「突然何よ!それは私には答えられないことよ。未経験なんだから・・・」
「自分でしたりしてこなかったの?」
「ええ?何を?」
「かまととぶって・・・つまり・・・もういい!話題変えよう」

仁美は結局何を聞きたかったのだろうかと、疑問が有紀には残った。ちょっと不機嫌な表情になっている仁美をなだめながら、二杯目のコーヒーを飲もうとした頃、宿の主人から電話が来た。
「はい、有紀です。・・・はい、解りました。直ぐにそちらへ伺います」

仁美と二人でロビーに下りていった。

「埜畑さん、今宅配便の友人から連絡があって、何件か同姓同名の宛先に配達した履歴が残っているらしいですよ」
「本当ですか!ありがとうございます。教えていただけるのでしょうか?」
「なんでも、夕方にここに寄ってくれるらしいです。ついでに詳しい場所を聞いておくといいですよ。彼はこの辺りを全部知っていますから」
「そうですか、嬉しいです。では待っておりますので来られたら呼んで頂けますか?」
「はい、わかりました。お部屋に居られますか?お出かけされますか?」
「夕方までに帰ってこれる範囲でいいところありますか?」
「そうだなあ・・・最近出来たラグーナ蒲郡にはアウトレットのお店があったり、海の記念館があったりしますよ。ヨットにも乗れますし」
「そうなの、ちょっと行って見ようかしら」
「では電車の時間見てきます。駅まで送りますから、三河三谷で降りてタクシーに乗ってください」

案内されたとおりに仁美と二人でラグーナに出かけた。真新しい施設はトヨタなどの出資で作られた第三セクターで温泉施設も併設していた。隣接する浜辺には高級リゾートマンションも建設中で、中高一貫教育全寮制の学校も建てられていた。

「素敵な所ね、ヨットハーバーも久しぶりに来るわ」
「ええ?有紀さんはヨットに乗ったことがあるの?」