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てっしゅう
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「忘れられない」 第四章 手がかり

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「だって、少し前までのあなたは、死んでましたもの・・・」
「有紀さん・・・ありがとう、本当にそう思ってくれるのね」
「当たり前よ、何とかしてあげたいと悩んでいたから、こうして笑顔で一緒に入浴できることは、本当に嬉しいのよ」

仁美は有紀の手を握ってきた。有紀も強く握り返した。言葉を超える強い気持が伝わる。男と女だったら・・・抱き合ってキスをした事だろう、そう感じた有紀だった。

「有紀さんって本当に綺麗な身体をしているのね、さっきから感心して見ているの」
「恥ずかしい事言わないでよ!あなたのほうが若いんだから」
「私なんか痩せたって言ったけど・・・まだこの辺がぶよぶよなの・・・有紀さんはほら、すっきりじゃない」
仁美は有紀のお腹を触った。人目をはばからない仁美の行動に恥ずかしさを覚えたが、まんざら悪い気はしなかった。自慢できるほどじゃないけど、日頃心がけていることだから認められることが嬉しいと感じた。

「明雄さんに逢った時のために、鍛えてるの。恥ずかしくないように・・・おばさんって思われたくないから」
「そうなの・・・偉いわね、女の鏡ね。あ〜あ、私もそんな人現れないかしら」
「ご主人がいるのに、何を言ってるの!困った人ね・・・仁美さんは」
「一応そうだった!忘れてた・・・ハハハ・・・」
「一応・・・なの?可哀想なこと。仕方ないか?でも、ひょっとするかもだね?」
「しないと思うよ、わかんないけど・・・まあ今は考えないでおくわ」

二人の会話はエコーの効いた浴室内に響き渡っていた。

30分はあっという間だった。少し遅れて外に出た二人はすでに待っている森に気遣った。

「ゴメンなさいね、遅れちゃって。とてもいいお湯でしたわ、ありがとうございました」
「気に入って頂けて良かった。お腹が空きましたから昼を食べてから宿に送りましょう。何が食べたいですか?」
「仁美さんは何が好き?」有紀は聞いた。
「何でも構わないけど、名物って何かしら?」
「はい、この辺りは赤味噌の発祥地ですからそれを使った味噌田楽や味噌煮込みうどんなんかが美味しいですよ」森の説明に頷いて、有紀たちは、
「じゃあ、お任せします。その味噌煮込みとやらを食べましょう」と返事した。

地元で美味しいと評判のうどん屋さんに入り、三人は味噌煮込みうどんの卵入りを注文した。土鍋に入って出てきたうどんを見て有紀と仁美はビックリした。沸騰している中でまるで味噌汁に入った太いうどんが見えたからだ。

「土鍋の蓋にとりながら食べるんですよ。こうしてね・・・熱いからやけどをしないように。それと卵は混ぜちゃダメです。もう少しすると半熟に変わりますから、そうしたら取り出して食べましょう」
言われた通りに食べ始めた。

「美味しいわ!このかたさが絶妙なのね。もっちりとして味噌味に合ってるわ」有紀は森のほうを見てそう言った。
「ええ、そうなんです。慣れると病み付きになりますよ」

たしかに濃い味ではあるけど、寒い日などにはピッタリのものだと感じた。土地が変わればうどん一つでもこんなに食べ方が違うのだと感心出来た。仁美は少し苦手だったのか、何も言わなかった。ご馳走になって二人は宿に送ってもらった。到着した宿の主人と森はどうやら幼なじみのようで、愛称で呼び合っていた。

「こちらは親しくしている大阪の方たちです。よろしくお世話頼みますよ」森はそう言って紹介した。宿の主人は終始笑顔で話すとても好感の持てる人物だった。こじんまりとした旧家の作りで、年季の入った建物という趣があった。

「ご主人、お世話になります。森さんとは湯沢温泉でお知り合いになったんです。とてもその後良くして頂きこうしてお付合いさせて頂いていますの」
「そうでしたか。あいつとは幼なじみでよく喧嘩をしましたが、腐れ縁なんですね、本当に仲良くしているんですよ。妻も行き来していますから安心してお泊り下さい。なにやらお探しに来られたとお聞きしています。宜しかったらなんでも聴いて下さい。ここらへんの事なら昔から旅館業をしておりますので何か解るかと思いますので、ご遠慮なくどうぞ」

主人はそう有紀に向かって話した。

「ご親切にありがとうございます。お世話になるかと思いますが、その節はよろしくお願いします」深く頭を下げた。仁美も同じようにした。部屋に通され寛いで、明日からの予定を考えることにした。幸い宿泊客は自分達だけだった。夕飯の後主人は二人に手伝える事が無いか、と尋ねてきてくれた。

「英ちゃんに少しは聞いているんですよ」英ちゃんとは森の愛称だった。
「そうですか・・・実は人を探しているんです」
「名前はなんと言うのですか?」
「はい、石原明雄と言います」
「石原さんね・・・訳がありそうですが、聞かないことにします。お仕事は何をされているのでしょう?」
「それが・・・もう30年も連絡が取れておりませんので解らないのですが、親の後を継いで塾をしていると思われます」
「塾・・・自分でなさっているか、お勤めされているか、ですね。この辺りでも最近関東・関西からたくさんの進学塾が支店を出していますから、個人で教えられているのなら、なかなか厳しい環境になっているでしょうね」

そうなんだ!と有紀は思った。ひょっとしてもう止めているのかも知れない・・・と。そうなら、探すのは困難になる。

「私の知り合いに大手宅配便会社の支店長をしているやつがいます。今は個人情報何とかやらで検索は出来ないようになっていますが、そこはそれ幼なじみということで無理を言って、その名前で過去に配達物がなかったか探させましょう」
「本当ですか!そんな事ができるのですか?それって、犯罪行為に当るのではないでしょうか?」
「厳密にはね・・・支店長責任として調べものをしていると言うことにすれば、誰も疑わないし、データーを見るだけなら証拠は残りませんから、大丈夫でしょう。頼んでみますから、待っていて下さい」
「嬉しいです、ありがとうございます。なんだか見つかるような気がしてまいりました。その方によろしくと申し上げておいて下さい」
「解りました。お気遣いはいりませんよ。英ちゃんには私も昔随分世話になりましたから、こんな事で恩返しが出来たら本望なんです。では明日また連絡しますから。おやすみなさいませ」

有紀は何度も何度も頭を下げて感謝を表した。

「仁美さん、きっと見つかるような気がするわ」
「そうね、そんな手があったなんてビックリね。運がいいのよあなたは・・・」
「ううん、きっと裕美さんが私の事を守っていてくれているんだわ!そうに違いない・・・」
「有紀さん・・・そんなふうに思ってくれるのね。ありがとう、あなたが男性だったら、私はもう恋をしていたところね。今夜にも抱かれていたかも知れない・・・」
「変な喩えね、ハハハ・・・抱きましょうか?」
「もう!しんみりとしているのに!茶化して!もっと色気出さなきゃ、だめよ。綺麗なだけじゃ男は喜ばないんだから・・・」
「意味深ね・・・経験者は語る?ですか。私はないからわかんないし、思いは誰より強いからそれで通じるって思うのよ」
「そう、そうならいいけど・・・」