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てっしゅう
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「哀の川」 第四章 過去との別れ

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直樹は自分が考えていたシナリオに会社が同調してくれると嬉しいと願っていたが、社長の意見は変らなかった。

直樹の予想通り株価は下がり始めた。アメリカに対する非難や、軍事支出に対するアメリカ国内の不況を為替の相場でカバーする動きが始まる。円相場も対ドルに対して上がり始めた。ポンドも同じである。今までになかった円高による輸入商品や石油、大豆など生活関連製品も下落し、生活必需品も値下がりを見せた。日本が大きく方向転換してゆく始まりだった。

夕刻になってタイムカードを押し直樹は退社した。駅に向かう直樹の後を後輩の女子社員が追ってきて、話しかけてきた。
「先輩、みんなが専務とのことをうわさしています。私は先輩がそんな人じゃないって思ってますので、信じていいですよね?」

その女子社員は直樹に好意を寄せている感じだった。直樹はそのことを知らない。

「愛ちゃん、それは専務に失礼だよ。そんなことありえるわけが無いじゃない?社長の奥様だよ!それに・・・僕には好きな人がいるし・・・」

愛ちゃんといったその子は愛美(まなみ)という名前で、通称は愛ちゃんと呼ばれていたのだ。ちょっとその返事に驚いて、
「エッ!先輩、彼女がいるんですか?・・・知らなかったです」
「いるよ、誰にも言っていないけど。専務には話したんだよ。それで何度か会っていたんだ。誤解させてごめんな・・・」
「いえ、いいです。そうですよね、みんなには違うって話しておきます。すみません、おせっかいして・・・」
「いいよ、僕のこと気にしてくれただけでうれしいよ、愛ちゃん」
「本当ですか?ありがとうございます。じゃ、明日。お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様。気をつけて帰るんだよ」

直樹は少しホッとした。これで専務とのうわさは消えるだろうと・・・今から麻子にすっきりとした気持ちで逢える事がうれしく思えた。

麻子は早くから駅で待っていた。直樹を見つけると走り寄ってきた。そして人目もはばからずに抱きつく。直樹にはもうこのしぐさが慣れっこになっていた。

「お待たせ、麻子好きだよ」
「待ってたわ、直樹、好きよ私も」
いつものように挨拶を交わした。

「直樹、今朝主人がイラク戦争のこと話していたの。逢っていきなりなんだけど、やばいって・・・出かける前にそう呟いて出掛けたの」
「ふ〜ん、やばい・・・か。始まったばかりなのに、まだ結果も出てないのに、そう感じたんだね・・・御主人勘はいい人だって裕子さんが言っていたから、当るのかも・・・」
「私はあなたとの事しか頭に無いから、気にしていないけど、あなたが聞きたいことがあれば、夫に聞いてみるから教えてね」
「ありがとう、そういう時が来たら頼むよ。さあ、どこへ行こう?」
「言い忘れていた!直樹、誕生日おめでとう!31歳ね。一つ縮まった」
「7月までの寿命だけどね、ハハハ・・・ありがとう」
「もう!意地悪ね。やっぱりおばさんだって思ってるんでしょ!」
「違うよ!それを言わないって約束だっただろう?もう、年の事言ったら、怒るから・・・麻子ほどきれいな女性は僕にはもったいないってずっと思っているんだから」
「直樹・・・そうだったわね、また言っちゃったね。今日はどう?ちょっと色っぽくしてみたけど」

麻子はこれ以上には出来ないほどのミニワンピーに、ハイヒール。くびれを強調させる、ウエストベルトを腰に巻きつけ、コートを羽織っていた。胸元はこれもこれ以上は深く出来ないほどのVゾーンを見せていた。コートをちょっと開いて直樹に見せた。

「おいおい、すごいねえ・・・生唾ものだよ・・・御主人に何か言われなかったの?」
「居なかったから、大丈夫よ。ねえ、色っぽい?」
「ん、誰よりも・・・だよ・・・したくなっちゃった」
「そう言うと思った。悪い女ね、こんな格好して誘惑するなんて・・・」

二人は体を寄せ合って、二人だけの場所へと向かっていった。