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てっしゅう
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「哀の川」 第四章 過去との別れ

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第四章 過去との別れ



レストランではワインで乾杯した。ゆっくりと廻り外の景色が変わって行くのが不思議な体験だ。回転させることをやめようという声もあったが、戦時中に戦艦大和の主砲台を回転させていた技術をここに導入したことが自慢になっていて、続けようとオーナーが決断した。日本の歴史を後世に残すと言う価値観が、このホテルの価値観と符合したのだろう。

「直樹の誕生日って確か、十七日よね?木曜日になるのかな」
「そうだね、木曜日だよ」
「じゃあ逢えないわね・・・」
「今日逢えてるからいいじゃない。それに毎週日曜日に逢ってるし」
「二人の誕生日は逢いたいの。少しの時間でもいいから。おめでとうって、言い合いたいの」
「そうだね、二人がこうして愛し合えることも、誕生日に生まれてきたからだよね。感謝しないといけないよね」
「そうよ、私は家族の誕生日は大切にしてきた。必ずお祝いしてきたし。今でも姉の誕生日と私の誕生日はお祝いするの」
「麻子は7月3日だよね?裕子さんは?」
「うん、姉も同じなの。不思議でしょ?母も一日違いで7月4日なの。だからまとめてお祝いしてた」
「へえ〜そうなんだ。まあ一回で済むから便利でいいよね、ハハハ・・・」
「そうね、便利かも。今年はあなたに祝って欲しいから、姉は母の誕生日に合わせて4日にするわ」
「裕子さん、怒らない?私より直樹・・・って」
「大丈夫よ、私たちのこと応援してくれているから」
「そうか、そうだよね。姉妹だものなあ」

話している間に元の風景に戻ってきた。食べ終わって、部屋に戻った二人は、アルコールが入ったせいか、身体が火照ってきた。歯磨きをし終えると、麻子が抱きついてきた。お風呂に入ろう、と誘ったが、待てないとせがんだ。上着を脱ぎ捨て下着姿になった二人はベッドの布団にもぐりこんだ。

麻子は直樹が触れる前に自分で下着を脱ぎ捨てた。あっけに取られてそれを見ていた直樹に、「どうしたの?」とつぶやく。「積極的だねえ、自分で脱ぐなんて・・・」そう言い返すと、「もう恥ずかしくなくなったの。いえ、恥ずかしくしないと決めたの。あなたが好きだから、あなたにもっと甘えるの・・・」そう言って、直樹の首に手を回し、唇を求めた。直樹が下着を取ろうと手をかけると、麻子は手伝うように手を添えた。もうすでに硬くなっている直樹の男性に手が触れる。身体を入れ替えるように麻子は上になり、すぐさま自分の口で直樹を慰め始めた。

「麻子・・・いいよ・・・初めてだね、こんなにしてくれるの・・・」
「直樹・・・好きよ、大好き、このまま入れたい・・・」
「いいよ」
ぬるっとした温かい感触が直樹の男性を包んだ。ゆっくりと身体を上下させる麻子はもう息が上がっていた。強い刺激が麻子を包み込む。

「速くしていいよ、感じるだろうその方が、まだ我慢できるから、さあ・・・」
「うん、直樹、直樹・・・」ベッドが揺れるようになってきた。
直樹も下から突き上げる。直樹の固さが最高に変って来たとき、麻子は身体を入れ替えるように要求し、自分が下で直樹の最後を受け止めた。

「直樹・・・直樹・・・好きって言って!離さないって、言って・・・あ〜」
「麻子!好きだよ、離さないよ、おっ!・・・」
二人の動きは止まった。汗が麻子の身体をべったりと覆っていた。お腹の上に溜まって、ぴちゃぴちゃと音がする。ひとまず身体を離して、バスタオルで拭き、再び身体を寄せた。今日は安全な日ではなかったが、麻子は何も言わずに直樹の出したものを受け入れた。

「麻子・・・よかったよ。今日は別人みたいだったね。まだ、気持ちが高ぶっているんだ」
「直樹・・・嫌いにならないでね。今日だけだから・・・なんだか恥ずかしくなってきた」
「いいんだよ、気にしなくても。今日はいろんな事があったから、僕も気持ちが高ぶっていたし、麻子だって裕子さんの話などで気持ちが揺らいでいたから、自然にこうなったんだよ。男と女だもの・・・こういう時だってあるさ」
「うん、ありがとう」
「シャワーを浴びて、温かくして、夜景を見ながら、ビールでも飲もう」
「ええ、それがいいわ。じゃあ一緒に行こう」

直樹が浴室から麻子の分のバスタオルを持ってきて渡した。二人は熱めのシャワーを浴びて、身体を温め直した。バスローブに包まれた麻子はその濡れた髪といい、ボリュームのある胸といい、特に細くなっている足首といい、映画のシーンに出てくるような光景を窓際に映し出していた。ビールの栓を抜き、グラスに注いで外を眺めている麻子に近づき、片方のグラスを手渡した。

「ありがとう、ゴメンねあなたにさせて」
「いいよ、そんな事。じゃあ、これからの二人に・・・乾杯!」
「乾杯!私と直樹の未来に・・・」
ごくごく喉を鳴らしながら直樹は半分ぐらい一気に飲んだ。

「うまい!こんなに美味しいビールは久しぶりだよ。麻子は?」
「ええ、美味しいわ。冷たくて気持ちいい。このまま時間が止まってほしいね。明日からはまた、普段の生活に戻ってゆくのね。直樹はお仕事頑張らなくちゃ!ね。あなたと今日逢えてよかった。あなたは自分の思い通りにしてね。私はついてゆくから。もう、年のことやからだの事で困らせるような事は言わないから・・・だから、最後に信じさせて!ずっと好きでいるという事を」
「麻子、ボクはどんな時だって困った事はないよ。キミの全てがボクの夢なんだよ。麻子がいたから僕は強くなれたし、元気にもなれた。もう絶対に誰にも渡さないよ!心も・・・身体も・・・死ぬまで好きでいるから」
「はい、私も同じよ」

飲み干したビールグラスをテーブルに置いて、二人は再び熱い抱擁をした。目と目がじっとお互いの強い想いを語り合っていた。どちらからともなくキスをした。長い間キスをした。一つ一つ夜景の明かりが消えてゆく中で、深く刻まれてゆく希望の明かりは消えることがないように今は思えた。


翌朝早めに麻子はチェックアウトした。昨日の支配人が丁寧に礼を言ってくれた。カードのサインをして支払いを済ませて、直樹の居るロビーに向かった。

「お待たせ。済んだから、コーヒーでも飲みましょう」
「うん、僕が払う分はいくら?教えて・・・」
「何言ってるのよ、そんなことして欲しくない。二人で逢っているときは私が払うから、どこだって奥さんが財布から払うでしょ?」
「麻子・・・すまない、気を遣わせてしまって」
「いいのよ、さあ、行きましょう」

ロビー横にあるカフェバーに席を移し、温かいコーヒーの香りに二人は包まれていた。

「直樹はこのまま会社へ行くのよね?何時だった始まるの」
「うん、9時だよ。今日はたぶん朝礼があるから少し早く行きたい。今8時だから・・・半ぐらいに出ようかな」
「道が混んでるといけないから、地下鉄がいいわね」
「そうするよ。永田町から落合だなあ」
「ねえ、17日木曜日に逢えるようにしてね。遅くなっても構わないから」
「ああ、ありがとう。仕事終わったら電話するよ」
「うん、実家にして。そちらに居るようにするから」
「わかった。そうするよ。じゃあ、行くね」
「行ってらっしゃい!ねえ、キスして・・・」
「ここでかい?」
「うん、ちょっとでいいから」