蝶
カツ定食を持ってくるのはここのおかみに違いない。
「そこの刺繍店どんな方がやってるか解りますか」
「30くらいの感じのいい人。大学辞めちまって、子が居るのよ。シングルマザー」
「余計なこと言うな」
主人の声だ。
「すみません」
宏は怪しい者ではないとばかりに名刺をおかみに渡した。
「いま、お譲ちゃんが食べてったばかり」
もしかしたらあの子かと思った。
宏は食堂を出ると、刺繍店に戻った。
誰も見えない。
さすがに中に入る勇気はなかった。
1ヵ月後私立探偵から報告が入った。
河内幸子であった。