蝶
宏は浅草の画家を訪ねた帰り、遅い昼飯を食べようと、食堂を探していた。
ガラス戸越しにショウケースがある。その中に刺繍された旗や運動着が飾られていた。
宏は懐かしく思った。同時に幸子を思い出した。
横を向いたまま歩く宏に女の子がぶつかった。その子はそのまま走って宏が見ていた店に入った。
刺繍工房 幸
と看板が出ていた。
宏は戻り店の中を覗いたが人影はなかった。
そのまま歩き食堂を見つけた。
昼の時間帯を外れ客は1人いただけだ。
「いらしゃい」
元気が良い。
「カツ定食」
宏は直ぐに注文した。
さっきの刺繍の店が気になった。