蝶
幸子は宏であることに気がついた。
大学に進学したとはいえ、生活はどうにもならなくなっていた。
刺繍の腕はあっても仕事がない。サラ金にも30万の借金をしていた。宏が4万円近くの支払いをしているのを見て、よほど声をかけようかとも思った。
アパートに帰ると寝るだけである。
何のための苦労なのかと考える。
宏に「先生になる」と約束したからなのか
いや自分のためなのだ。
車のライトが走馬灯のように窓を過ぎる。
渡良瀬川に笹舟を流したことが思い出された。
きらきら光る夜の川に、宏と2人で流した笹船はどこに辿り着いたのか
逢いたい、逢えない。